鳴かぬ蛍が身を焦がす
意志
「僕は……僕は、弟とお父さんの会社を守っていきたいと思ってます」
僕が話し出すと先輩は静かに耳を傾けてくれる。自分の夢なんて話すのも初めてだから、少し緊張する。
「あの…僕は頭も良くないし、人見知りだし、会社を継いでも潰しちゃいそうで…。だから昔弟に言ったんです『僕の変わりに会社を継いでね』って。弟は小さい頃から医療関係に興味を持っていたので」
話しながら弟の顔が浮かぶ。
浩は小さい頃から頭が良くて、社交的で、努力家で自慢の弟だ。お父さんの会社にもすごく興味を持っていたから絶対浩が会社を継いだ方がいいと思って僕はさっきの言葉を浩に言った。
「そうしたら弟が『兄さんにしか出来ないこともあるから一緒にお父さんの会社を守っていこう』って言ってくれたんです。正直、僕にしか出来ないことなんてないと思うんです。だけど必要としてくれるなら僕なりに頑張ろうと思って…」
お父さんも『二人で会社を継いでくれることほど嬉しいことはないなぁ』って笑ってくれたから、出来るだけの努力はしようと決めたんだ。
「えっと、これが僕の夢…というか将来の目標なんですが」
こんなかんじで良かったのかな、と不安に思いながら僕は鳥栖先輩を見た。僕の視線に気付いた先輩は「足穂らしいな」と言ってくれたので、なんだか嬉しい。
「ただ、私も足穂の弟と同じように足穂にしか出来ないことはあると思うぞ。もっと自信を持て」
「えっ…それはないですよ!本当に僕は平々凡々で」
「いや、親衛隊の制裁に耐えた強い心。自分より人を優先する優しさ、それだけで充分自信を持ってもいいと思うが」
先輩が至って真面目な顔で言うから、本心から僕の事をそう思ってくれてるんだというのが分かって照れくさい。
「あ…ありがとうございます」
「いや、こちらこそありがとう。これでまた一つ足穂の事が分かった」
先輩がそんな事を言って笑いかけてくるものだから、つい顔が赤くなってしまった。
「どうした?」
「なっ、なんでもないです」
さらにうっかり先輩を見つめてしまっていたようで、それに気付いた僕は慌てて俯く。
もう、僕は何をやってるんだよ!……でも美形の人って笑っただけでもすごく人を引きつけるような何かが出てるんだ。うちの家族も僕以外は顔が良いけど、先輩達…特に鳥栖先輩は別格って感じで、つい目がいってしまう。
だけど、やっぱり見つめるのはおかしいよ!うーーん………。
「ふふ、何一人で百面相してるのかな?足穂君」
「え!」
僕の悪い癖で悩むと周りが見えなくなっちゃうんだけど、どうやらまた自分の世界に入ってしまっていたようで、笑いながら碓氷先輩に声を掛けられて気が付いた僕はさらに恥ずかしい思いをした。
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