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鳴かぬ蛍が身を焦がす
正体



「……あっ」

「どうした?」


先輩達の優しさが嬉しくて、僕はとても大事な事を忘れるところだった。

江本君に言われたあの事を。


「あのっ…あの…!」

「落ち着け、井沢。ゆっくり話せばいい」


焦ってうまく言葉が続かない僕の背中をぽんと先輩が叩いてくれる。そのおかげか少し落ち着いた僕は、ゆっくりと続きを口にした。


「…さっき食堂で江本君に言われたんです。僕が…僕が自分から辞めなかったら、生徒会の人達がお父さんの会社を潰すって…もう準備もしてるって…!」


そうだ。僕だけがこうやって助けてもらっても駄目なんだ……それじゃあ会社が…。でも先輩達にお父さんの会社を守ってなんて言えない。

せっかく味方になってくれるって言ってくれたのに、やっぱり辞めるしかないのかな……。

そう思うと嬉しかった分余計悲しくなった。


「心配するな。井沢の家が被害を被ることはない。私達に任せてくれ」


鳥栖先輩はそう言って俯いた僕の顔を持ち上げてくれたけど、僕だって何も知らないわけじゃない。

生徒会の人達はみんな大企業の跡取りばかり。もし僕の家を助けたせいで先輩達の家まで標的にされたら……。


「駄目です!先輩達の家まで巻き込んじゃいます、それは駄目っ!」

「なに、巻き込まれたところで平気だ。そうだろう皆」

『勿論!』

「だっ、だから駄目ですって!」


皆は先輩の問いかけに迷いもせず答える。…嬉しいけど、こんなに優しくて素敵な人達を巻き込みたくない。

なんとか家の事に関しては僕だけでどうにかしますと伝えようすると、鳥栖先輩が先に口を開いた。


「それに井沢の所の会社が無くなると、私の方も困るんだ」

「え?」

「覚えていないか?一度うち主催のパーティーで会っているんだが」


先輩と僕が会ってる?

でもパーティーと言われて思いつくのは、お父さんに連れられてたった一度だけ行ったの得意先のパーティーぐらい。

人がたくさん集まる場所は苦手だからパーティーに行ったのはその一度だけ。お父さんの会社が作る医療器具は最高だ、とそこの社長さんが誉めてくれたのを覚えてる。


……そういえば、社長さんの隣には確か僕と年の近い息子さんが……。


「あ!」

「思い出したか?」


僕が思わず声をあげると、先輩は笑みを浮かべる。


「あのっ、先輩は、緑風病院の…」


なんで気付かなかったんだろう、あの時横にいた人は先輩じゃないか!

それに緑風病院はたくさんの系列病院を持つ、それこそ生徒会の人達だって手が出せないぐらいの大病院でお父さんの会社の一番の取引相手だったはず……。

あ…だから巻き込まれても平気だって言ったんだ!

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あきゅろす。
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