鳴かぬ蛍が身を焦がす * 全員と挨拶を交わしたところで、ちょうど鳥栖先輩が戻ってきた。 「真幸先輩!井沢先輩可愛いですねぇ。僕気に入っちゃいましたー」 「そうか。輝は好き嫌いが激しいから心配していたんだ」 「何ですかそれ。僕そんなに我が儘じゃありませんよー」 「いや、輝は我が儘な上気が短いよ」 「ちょっ…アッキーうっさい!」 話しながら先輩はどこからか持ってきた椅子を僕の前に置いて座る。 救急箱を開き道具を出すと先輩が服を脱ぐよう僕に言ったから、言われたとおり服を脱ぐと、周りが息を呑んだのが分かった。 やっぱりこんな痣だらけの体、気持ち悪いよね…。 「見苦しいもの見せちゃってすみません」 「っ…何言ってるの井沢君!こんな酷い怪我させられて……もっと早く俺達が動いてれば…ごめんね…!」 謝ると碓氷先輩が泣きそうな顔で僕の手を握ってくる。 他の皆も何故か僕に謝ってきて、こう思うのは変かもしれないけど嬉しかった。 「ありがとうございます……そう言ってもらえるだけで嬉しいです」 「井沢君…」 「今までは誰も怪我の事なんて気にしてくれなかったから、こうして今心配してもらっただけで充分なんです」 そう言うと鳥栖先輩が頭を撫でてくる。ぐりぐりと髪の毛がぐしゃぐしゃになるぐらい撫でられると「よく頑張ったな」と言われ、視界が潤んだ。 やだなぁ、僕昨日から泣いてばっかりだ…恥ずかしい。 「僕決めた!もう絶対生徒会潰す!」 「気持ちは同じだけどあんまり輝が暴れると疲れるのは俺だからな…」 「まぁ、頑張りなよ昭行〜!俺も暴れるけど♪」 「…忠彦も程々にな」 先輩の手が離れて顔をあげると、なんか潰すとか暴れるとか結構過激な事を皆言ってる。どうしよう…僕体力はないから役に立てるかな。 皆が(主に唐木君と安岡君だけど)が息巻いていると、鳥栖先輩が落ち着いた声で制止をかけた。 「お前達、私達のすべき事は生徒会及び学園内の是正だ。潰す等と言うな、それでは今の生徒会と同じだぞ」 「皆、真幸の言うとおりだよ?俺達は彼等のようになってはいけないんだから」 『…はーい』 話が一段落したところで先輩は僕の怪我の手当てを始める。少しでも触れられると痛くて声を上げる僕を気遣ってか、もの凄く手早く手当てを済ませてくれた。 湿布を張られ包帯も巻かれた自分の体を見て、昨日の夜もこうして手当てしてくれたんだろうかと思う。 「あの…昨日も鳥栖先輩が?」 「あぁ。でも井沢の部屋には湿布しかなかったからな、ちゃんと出来なかった。すまないな」 「いいえっ、それでも僕凄く嬉しかったです!」 あの時の喜びは絶対忘れないと思う。 僕が力一杯言うと、先輩はふっと笑って脱いでおいてあったシャツを僕の肩に掛けた。 「そうか、なら良かった。ほら、風邪を引くぞ。もう終わったからシャツを着ろ」 元気よく返事をすれば振動で体は痛かったけど、鳥栖先輩の、皆の優しさのおかげで心は暖かかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |