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恋は曲者、俺は被害者
夜は大人しくするべきでした


「んー…」


小さな呻き声と共に虎徹は目を覚ました。時計を見ると布団に入ってから一時間も立っていない。

寝る前に枕投げに巻き込まれて疲れているはずなのに、と思いながら起きたついでに布団から出てトイレに向かった。

離れにはトイレは一つ、玄関の横にある。紀一と幸大の部屋のすぐ近くだ。だから虎徹は二人の部屋の前を通って行こうとしたのだが、何やら声がしてつい立ち止まってしまった。


『…ひ…ゃぁ……ぁんっ…、紀一さ……』

『幸大…』


中から聞こえてきた声に虎徹は驚いて思わず声をあげそうになる。

実際声にならなかったのは、後ろから延びてきた手に口を塞がれたからだった。













「あの、さ……千草君…さっきのだけど…」


口を塞いだのは千草だった。そのまま部屋に戻った二人だったが、虎徹は先程聞いてしまった声の事で頭がいっぱいのようだ。


「その……やっぱり、あれって」

「セックスだよねー」

「っあああ!みなまで言わないで!!」


かなり勇気を出して聞いたのに露骨な言葉を返された虎徹は、恥ずかしさのあまり耳を塞ぐ。


やっぱりかー!!うわぁ、友達のセ……してるのを聞いちゃうなんてっ、幸大ごめんんんん!!!!


「虎徹くーん戻っておいでよー」


心の中で謝っていると、耳から手が外されて声を掛けられた。


「えっ、あ!ごめん…」

「まぁビックリするよねー!」

「うん……っあー…明日どんな顔すれば…!」


絶対普段の顔は出来ない、と唸っているとすっと頬に手を添えられた。


「じゃあ、幸大さん達と同じことしたら恥ずかしくないんじゃないかなー?」


話しながら千草の手は頬から首筋へ移っていく。
すぐに意味を理解出来なかった虎徹だったが、手が浴衣の中に入ったところで千草の言っていることが解った。


「えあっ!?いやいやいや、ないから!!それはない!!」

「えー」

「えーじゃないよ!あり得ないから!!」


そう、あり得ない。だって俺達実際は恋人じゃないし!!あ、あああんなの…!!


思い切り首を振り、手を振り断る虎徹。その様子に千草は不服そうに手を引っ込めた。


「あり得ないかぁ…ねぇ、虎徹くん」

「なっ、何」

「気付いてないかもしれないけど俺、虎徹くんとああいう事したい意味で好きだからね?」

「へっ……?」


恰もさりげなく言われた衝撃的な言葉に虎徹は動きを止めた。

確かに千草には何度も好きだと言われているが、そんな意味合いだと思っていなかったのだ。


「そういう風に俺が虎徹くんの事好きだってちゃんと覚えておいてね」


いつも通りの笑顔で、しかしいつもよりしっかりとした口調でそう言った千草に何も反応できなかった虎徹は、「おやすみ」と囁いて自分の頬にキスすると布団に潜ってしまった千草をただ見ているだけだった。


「………え?」


やっと反応できた頃には千草はすでに夢の中で、虎徹の声だけが部屋に静かに響いた。

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