恋は曲者、俺は被害者 知らぬは我が心のみ? 虎徹は千草と共に夜道を歩いていた。 八時も過ぎ、店の仕込みの手伝いを理由に歓迎会を抜けてきたのである。今頃主役の抜けた歓迎会はただの飲み会になっていることだろう。 「楽しくなかったー?」 「そんなことないよ!ただ午後の手伝い休ませてもらったから…夜も一人じゃ親父も大変だろうし」 「虎徹くん偉いねー。俺は逆に邪魔だから手伝うな言われるよー」 多分不器用なのだろう。それに手伝いをしている千草も虎徹には想像出来なかった。 …というか手伝いも理由の一つだけどそれ以上に衝撃的な事が多すぎて帰りたかったっていうのもたるだよなぁ……。 歩きながら虎徹は歓迎会の様子を思い出していた。 気付いたら紀一の膝の上に座っている幸大、そんな幸大の腰に手をまわし髪や肩に唇を落としている紀一。 酔っているのか急に信正に襲いかかってディープキスをかます真澄、その真澄を強烈な平手打ちと周りが聞いているだけで泣きたくなる罵詈雑言を浴びせる信正。 濃かった…、とにかく濃い時間だった。 まだまだ彼等に慣れていない虎徹にとっては、少しばかりきつかったようだ。 「あー…もう着いちゃった…」 思い出してまた疲れた虎徹は、千草の声で顔を上げた。 また考えている間に家についてしまったらしい。 「千草君、今日はありがと。楽しかった」 「次は普通の飲み会しよーねー!じゃあ……」 高校生が飲み会って…と心の中で突っ込んでいると、千草の顔が近付いてくる。 「っわぁ!まっ、待った!」 「ん?」 慌てて顔の前に手を出して、千草の顔を止める。 「あっ、あのキスは……俺達友達みたいなもんだし…」 「…俺達、恋人でしょー?」 「いや、そうなんだけどっ…!」 「虎徹くんは俺にキスされんの嫌?気持ち悪い?」 シュンと悄げながら尋ねてくる千草に虎徹はすぐに答えられなかった。 昼間真澄に言われた言葉が頭の中をぐるぐると回る。 「い、やじゃない…けど……」 そうなんとか答えた瞬間、虎徹は千草に口を塞がれた。 「ならやめなーい!俺、虎徹くんの事好きだよ?キスもしたいもん」 少しして唇を離した千草はそう言い残し帰っていった。 虎徹は「好きだよ」と言われて何故か鼓動を早くする胸を抑えながら、「嫌だ」と言えない自分が自分で理解出来ず、一人玄関前でしばらく悶々として過ごした。 [*前へ] [戻る] |