恋は曲者、俺は被害者
一歩前進
「あー!!虎徹くん笑ったよねっ、今!」
初めて笑った虎徹を見た千草は嬉しそうに笑うとがばっと抱き付いた。
「えっ!うぇ!?」
一方抱き付かれた虎徹は意味が分からず、おまけに恥ずかしさも加わってちょっとした混乱状態だ。
「昨日から困った顔とかばっかだったからさー!俺、嫌われてるのかと思ったよー!」
「やっ、そんな事は!ってか苦しい…!」
千草の言葉で状況は解ったが、体格差の上抱き締めている千草の力が強く虎徹は酸欠状態だった。
腕を軽く叩くと離してくれたが、軽く涙目になっていた。
てか嫌われてる、とかそんな事を考えるなんてやっぱりいい人なんだろうな、千草君。
「大丈夫?」
「うん。…なんか俺もごめん、変な気使わせちゃって」
虎徹が謝ると千草は大きく首を横に振る。
「平気だよー!あ、でももっと笑ってくれると嬉しいかも。俺、笑顔って好きなんだー」
「そっか」
これからはビクつかないで、普通に接しよう。千草君、怖い人じゃないし。
虎徹がそんな決意をしていると、真澄から声が掛かった。
「ことらちゃーん、イチャついてるとこ悪いんだけど、俺もケーキ欲しいなぁ」
「イチャ…!?」
イチャついているという言葉に恥ずかしくなって虎徹は少し顔を赤くしたが、それ以前に抱き付かれたところを見られていた事に気付いてさらに顔を赤くした。
「ふふっ、真っ赤だねぇ」
「気にしないでください!それよりはい、どーぞ!」
からかわれそうなので、話題を反らそうと虎徹はタッパーを差し出す。
真澄もからかうよりケーキに興味があるのか、すぐ視線がそちらへ移した。
「あ、これ美味しそー」
「それ、甘さ控えめなんですけどいいですか?」
真澄が選んだのは、甘いものが苦手な人にもケーキを楽しんでもらいたいと思って試作したコーヒーとビターチョコのケーキだった。
「じゃあ、これは信正の。俺はこっちにしよーっと」
「真澄、俺が甘いものはあまり好きじゃないの知ってるだろ」
少し眉を顰め信正が言うと、ちぇーと口を尖らせて真澄はケーキを元に戻そうとしたが、虎徹がそれを止める。
「あの…そのケーキ、甘いのが苦手な人用に俺が考えたんです。良かったら食べて感想頂けないですか?」
虎徹の周りは甘いもの好きばかりで、いい参考がとれそうになかったのだ。
これはチャンス!
「…食べれない訳じゃないからいいだろう」
「ありがとうございます!」
信正の返事に虎徹は心の中でガッツポーズをした。
梶井先輩、見た目は近寄り難いけどいい人だ…!
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