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二周年記念プチ企画小説
存在感


ここ最近飯を食べに来たり、遅くなった時は泊まったりしていた鹿ヶ谷が今日はいない。
なんでも今日の点呼は珍しく適当な寮長じゃなくて規則に厳しい副寮長らしい。だから溜まり場を出てからそのまま寮に帰っていってしまった。

そんな訳で久し振りに一人で過ごしていると、少し前まで当たり前だったその時間がやけにつまらなく思えてくる。作った夕飯を食べても何だか味気ないし、すっかり読む機会を失っていた小説を読んでも数ページで飽きてしまった。

そもそも一人がいることにつまらないなんて考えたこともなかったのに、どうやら俺は鹿ヶ谷と過ごすうちに大分変わってしまったらしい。


『なぁ、おまえ大丈夫か?さっきから唸ってるけど…』

『あんた、今暇か!?』


思い返せばそんな会話から始まった俺達の付き合いが、隣にいるのが当たり前になるほど親密になるとは思ってもいなかった。それ以上に好きになるとは思ってもいなかったけど、なってしまったものは仕方がない。

切っ掛けともいえる鹿ヶ谷の趣味の話は未だに理解できない部分も多いけど、瞳を輝かせ身振り手振りで話す鹿ヶ谷を見るのは好きだし、向けられる笑顔は眩しいほどだ。というか、堪らなく愛らしく思える。何よりそういう話は俺にしかしないことが嬉しい。

だからきっとそんな鹿ヶ谷との時間がいつの間にか俺の中の感覚を変えてしまって、一人がこんなにつまらないのかもしれない。


「……………あぁ、くそ」


そこまで考えて、色々と思い返したせいで鹿ヶ谷に会いたくなってしまった自分に対して悪態を吐いた。

流石に寮に忍び込むわけには行かないし湧いてしまったこの気持ちをどうしようかと悶々としながら頭を掻く。だけど会うのが無理なら声だけでも聞ければと思いつき携帯に視線を向けると、同時に携帯が鳴った。

ディスプレイには『鹿ヶ谷 梛』の四文字。


「もしもし」

『あっ、平!今暇か!?』


急いで出ると思い出していたのと同じ様な言葉と聞きたかった声がして、俺は話しながら気持ちが弾むのと口許が緩むのを感じた。




あきゅろす。
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