二周年記念プチ企画小説
芽生え
井沢のことをもっと知りたくて、その為に歩夢と距離を置こうと決めて一週間弱。
近くにいる時は俺が呼んだって会長達と話してたり興味が他に向いてたりしてたくせに、離れてからはしつこいと思う程歩夢は俺に構ってくる。
少し前なら嬉しかった筈なのに今はそれがすごく嫌で、俺は毎日歩夢から逃げるように過ごしていた。
「たーすーくー!!翼っ、何処だよー!?遊ぼうぜー!」
今日もまた歩夢は俺を探して生徒会を引き連れながら校舎をうろうろしていた。
その声に怯える生徒、睨み付ける生徒、羨むような視線を向ける生徒……そんな周りの様子が離れている今は良く分かる。
「歩夢君、あんな不良放っておけばいいよ。折角歩夢君が声を掛けているのに無視するんでしょう?」
「でもっ、翼は俺ぐらいしか友達がいないから仲間外れにしたらかわいそうだろ!!」
『歩夢ってば優しい〜〜!』
早くいなくならないかと物陰から様子を窺っていると、会話が聞こえてきて苦い気持ちになった。
一見、優しく聞こえる歩夢の言葉。
でも、そこには無知と傲慢があることに俺は気付き始めていた。
「っ……井沢」
そんな時ふと後ろを見ると井沢がこっちに向かって歩いてきているのが見えた。
井沢は階段から落ちた時も一緒にいた小柄な奴と笑いながら話していて、俺がいることもこの角の向こうに歩夢がいることも気付いていない。
だけどそのまま歩いていたらきっと歩夢が井沢を見つけてしまう。そうしたら井沢に構う歩夢を見て、俺もしていたように生徒会が嫉妬や悪意に満ちた言葉を突き刺すように言うんだろう。
でもそんなものは見たくなかった。
「あ!翼だっ、ちょっと待てよ!なんで走るんだよ、翼ッ」
気が付いたら俺はわざと飛び出して井沢がいる方とは真逆に伸びた廊下を走っていた。
そんな俺に歩夢も気付いて追いかけてくる。
それを確認して、これで井沢に気付く心配はないと安堵した。
それだけじゃなくて再度振り向いた時に井沢がまだ笑っているのが見えて、あの笑顔を守れたことに何故か俺の胸は熱くなる。
けど、今の俺にはこの熱さの意味は分からなかった。
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