二周年記念プチ企画小説
恋心
体育の時間にうっかり足を怪我してしまった俺は、捻挫で全治二週間という診断を受けてバイトを休まなければいけなくなった。
少ない仕送りで独り暮らしをしている身としてはバイトにいけないのは辛いことだけど、無理して悪化させて治療費がかさばるのも困る。でもそれ以上に俺を苦しめるものがあった。
それは直之さんに会えないことだ。
俺がバイトを休むことになったからシフトを組み直して空きが出来たところは全部店長である直之さんが入っているらしい。そのせいで忙しくて俺達は全く会えていなかった。
完璧に自分が原因だ。おまけにまさかバイトがないとこんなに会えないものだなんて思っていなかったから、「毎日見舞いに行く」と言ってくれたのに無理しなくていいよと断ってしまったのをすごく後悔している。
それでも最初のうちはまだよかった。新聞配達のバイトも休んでるから朝も夜もたっぷり時間がある。いつもより寝て、録り溜めしてあったドラマなんかも見て、ついでに勉強もした。
だけど四日もすればそれにも飽きて、それで無性に直之さんに会いたくてしょうがなかった。
「……………………………………暇だ」
怪我をしてから初めての土曜日。学校もない休日は予想より退屈で、思わず口にした暇という言葉が部屋に虚しく響いた。
なんとなく携帯を開くとちょうど具合を心配するメールが直之さんから来ていて、大丈夫と返しておく。俺にはまだ会いたいと我が儘を言う勇気はなかった。
「さみしいな…………」
正直、こんなに会えないのが辛いなんて思わなかった。俺ってこんなに直之さんが好きなんだってちょっと恥ずかしい。
それに前は部屋に一人でいても寂しいなんて思わなかった。一緒に働いて、たまに家でご飯食べて、週末には出掛ける、そんな時間が俺の中ですごく大事で大切なものになってたんだって証拠だ。
けど一人の時にこんなことに気付いてしまうと、ますます寂しくなる。そんな時、古いせいか掠れたチャイムが鳴った。
今は仕事中なはず、と思ってもついドアが開くのを待ってしまう。
……………直之さんならチャイムを一回鳴らした後に、合鍵で入ってくる筈だ。
そんな期待を込めてドアを見ていると、カチャリと音が鳴ってドアが開かれた。
「詩」
そして入ってきた直之さんに、何で来れたの?と聞く前に俺は足を庇うのも忘れて抱き付いていた。
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