縁は異なもの、味なもの *(一綺視点) 「バレちゃったねぇ…」 龍治さん達を見送るため教室を出て行く成瀬を見ていた俺に、上総がそう声を掛けてきた。 「しかも、厄介なライバルまでいるみたいだし?」 上総が横目で汀田を見る。 コイツは昔から気に食わなかったんだ。最近は成瀬と一緒にいるところを見るとさらに苛ついたが、それはコイツが俺と同じ目で成瀬を見てたからなんだろうな、多分。 「……!」 俺と同じ様に成瀬を見ていた汀田は視線に気付くと、こちらを向いて小さく笑みを浮かべた。 …負けねぇってことか。 俺だってコイツに負ける気はねぇ…成瀬の隣に立つのは俺だ。 「前にも言ったけど、俺は一綺を応援するよ」 「あぁ…」 「俺が見た限りまだ成瀬君の一番は龍治さん達。チャンスは平等なはずだからさ」 そんな事は上総に言われなくとも解ってる。あんな幸せそうな顔、俺達といる時には見せたことがない。 龍治さん達との違いを見せつけられて正直悔しかった。 「……汀田」 「何だよ」 「俺も…負ける気、ねぇから」 だから、まずコイツに勝つ。そう気持ち込めて、あえて宣言した。 汀田は勿論、上総も笹光も驚いた様子で俺を見てくる。確かに柄にもねぇしてる自覚はあるが、こんぐらい俺が真剣だってこと覚えとけよ、汀田。 「…まさか、お前がそんな事言ってくるなんてな。まぁ、昔から馬が合わないがこれで決着付けようじゃないか」 「そうだな。負けたら潔く諦めろよ」 「そっちこそ」 そんな話をしていると成瀬が教室に戻って来た。俺達の方に駆け寄ってくると、申し訳なさそうに頭を下げてくる。 「すみませんっ、同席が相席の条件だったのに」 「…気にするな」 「俺も構わねぇよ。それより楽しかったか?」 「はい」 龍治さん達の話が出ればやはりすこし表情が和らぐ成瀬を見て、つい頭に手が伸びた。 自分が引き出した表情じゃなくても、可愛すぎる。 「良かったな、成瀬」 「穂純先輩」 頭を撫でれば汀田が目を細めて睨んでくるが、気にもならない。 けれど、すぐに汀田も手を伸ばして少し乱れた髪を梳いて直した。 苛ついて汀田を睨むが視線を合わせもしない。 「二人とも、ありがとうございます」 そう声を掛けられて成瀬に視線を戻せば、少し微笑んだような顔を向けられて、苛ついた気持ちがすっと晴れる。 残念なのはこれが汀田にも向けられていて、いつか独り占めしてやろうと思った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |