縁は異なもの、味なもの
前日は大忙し
「…このぐらいで足りるか」
捲っていた袖を下ろして一息付くと、目の前にある大量のカステラを見た。
焼きたてのカステラはほかほかと湯気を立て甘い匂いを部屋中に放っている。
「うまそーな匂い!すっげ食いたいっ」
「空チャンもそう思うー?俺も!」
手伝ってくれていた空と篤は甘い匂いに負けそうなのか、そっとカステラに手を伸ばしている。それを軽く叩いて窘めるとあからさまに元気がなくなった。
……なんだろうか、この罪悪感。
「また、作ってやるから」
「本当ー?」
「あぁ。それにこの後は衣装合わせだろ?あまり気乗りはしないが…」
確か花崎が衣装担当は気が短いから集合時間には遅れない方がいいと言っていた。
「ほら空も元気だせ」
「はーい…」
時計を見れば集合時間まであと十五分、片付けも入れたら時間ぎりぎりだ。
俺達は急いで片付けを終えると、被服室へ向かった。
「あ…成瀬、空君、篤お疲れ様!早くついた人からもう合わせちゃってるよ」
被服室に付いた俺達を出迎えたのは花崎だった。
ただいつもと違って淡黄色の着物に赤紫色の袴、肩と裾にフリルの付いた白いエプロンを纏っていたが。
「…花崎、それが衣装か」
「そうだよ。エプロンは共通で着物と袴は色違いだけどね!」
成瀬は黄色の着物に萌葱色の袴だよ、と言いながら綺麗に並べてある衣装を指差す。
「俺似合わないよこんなのっ!無理っ、無理だって!」
「いやー空チャンは似合うって!都流ー、空チャンのはどれ?」
「これこれ〜!薄紅色に蘇芳の袴!」
持ってきた着物を空の肩に掛けてはしゃいでいる篤と花崎を横目で見ながら自分の衣装を手に取ってみる。
袴はまだしも、フリルの付いたエプロンが非常にキツい。これは客に対する嫌がらせとしか思えないな、俺は。
「あ!成瀬達着いたの?だったらさっさとこっちくる!花崎も着付け手伝ってよ!」
教室の奥にある衝立からはきはきとした声と共に小柄な人物が現れる。
衣装担当の桃川だ。
実家が呉服屋らしく、今回の衣装も全て桃川が手配したらしい。
「ほら!とっとと脱ぐ!自分で脱がないんなら僕が脱がすよ!いいの!?」
「ちょっ、タンマ…!」
噂通り短気のようで、まくし立てながら空の服に手をかけている。本当に身包みはがされかねないので、俺達は大人しく衝立の奥の脱衣所に向かった。
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