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TRIP
5.

日が天頂に昇る頃になるとサラサラと水の流れる音が聞こえてきた。近くに川があるのだろう。
俺は竹の水入れを手に森へ入っていく。
太陽がキラキラと反射して少し眩しい川を見つけ、その水を掬って飲んだ。
旨い。水入れを水に突っ込み、十分水が入ったら引き上げて蓋をする。
先程の村では水を使わせて貰えなかったので2日、村に来るまでに川や雨が無かったため4日程身体を洗っていない。
しばらくぶりの水に俺は纏っていたコートを脱いだ。ズボンの裾を捲り、黒い服の袖も捲る。
手ぬぐいを濡らし、絞って身体を拭いていく。
あらかた拭いて手ぬぐいを洗おうと川に目をやると流れてくる“何か”。
岩に引っ掛かったそれを手に取るとそれがヴェールだということが容易に判った。
川上に誰かいるのか?
俺はコートを纏って川上へ向かう。
河原の石がジャリジャリと音を立てる。それを気にしながらゆっくりと歩を進める。
誰かの話し声が聞こえてくると木の後ろに隠れ、聞き耳を立てた。
その声の主は二人組の男。どうやら二人の男は物取りらしい。
俺は目を凝らした。
二人ともガッシリとした体つきで目つきが鋭い。


「この女、奴隷商人にでも売ってやろうか。きっと良い銭になるぜ」

下品な笑いを浮かべる男達の言葉で狙われたのは女だと知る。
何処だ?と視線を巡らせ、木々の間に白い布を見付けた。
多分、ヴェールの持ち主で合っているだろう。意識が無いのかピクリとも動かない。
俺はあえて被っていたフードを脱いだ。本来、こういうことは好きではないんだが・・・・癇に障る。


「おい!」

俺は男達の目の前に出て行った。
俺の姿を見付けた男達は新たなカモだと舌なめずりをしている。


「へっ、これはこれは。不吉な黒髪男か。俺達に声掛けるなんて馬鹿な奴だな!」

男が殴り掛かってくる。俺はそれを右に流し鳩尾を殴る。うずくまった男の頭にさらに固めた両手を振り下ろした。
気を失い倒れる男。
黒髪だと相手が油断しやすくて助かる。
もう一人が襲い掛かってくる。ナイフを取り出し突き刺そうとする男の刃を両手で挟み捻った。ナイフが男の手から落ちたのと同時に鳩尾を殴った。
呻く男は気絶した男を抱え、フラフラと逃げ出した。
俺はそれを深追いせず、倒れている女を見る。
さっき見た白い布はやはりウェディングドレスだった。茶色の長い髪が広がっている。
なんで普通教会にいるはずの花嫁がこんな森の中にいるのか、問いたくても聞く相手には意識が無い。
俺は溜め息を零してその女を抱き上げた。
丁度良いスペースを見付けそこに寝かせる。
俺は近くの木に寄り掛かってまた笛を磨きはじめた。








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あきゅろす。
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