[携帯モード] [URL送信]

TRIP
5.

その時、遠くから少年がこちらに来ているのが見えた。
明るい茶髪に袖をまくったブラウス、膝で一回折った丈の短いズボンに革で出来た靴を履いて走っている。その格好はどれも上等なものでただ者には見えない。
少年は私達の前に来ると目をキラキラと輝かせて言った。


「お姉さん、旅芸人!?どこから来たの?もしかして公爵家公認!?」

矢継ぎ早に繰り出される質問に驚いていると間に手が入って来た。


「アンリ様、失礼ですよ」

青年が少年を窘める。
様、と呼んだ所を見ると少年の方が身分が上らしい。
しかし来ている物はやはり良いもので、腰に長剣を携えていた。濃い茶色の髪を簡単に一つに括っている。
青年はこちらを向いた。


「突然失礼申し上げました。我が主の非礼をお許しくださいますよう」


「いいですよ。気にしてませんから」


「‥‥エミル、堅苦しいからその喋り方嫌だ。僕が許す。いつものように話せ」

少年の要求に青年はヤレヤレといったように肩を竦めた。


「アンリ様の命令とあらばそのようにも致しますがね。では無礼を承知で‥‥こちらはアンリ・ウェスト。ウェスト男爵の一人息子、次代の領主だ。俺はエミル・ゴード。アンリの護衛をしてる」


「私はセナ・グレースです。こっちがクロ・オルガネット。フレルに行きたいんですが船が出ないと聞いて‥‥」


「ああ、僕に敬語は要らないよ、セナ。普通に話して。フレルか‥‥公国から勅命が来てるんだよね。『船を出すな』ってね。理由は多分誰かに聞いたと思うけど、公国から出て他の大陸に行かないようにするため。酷い国だよね。重税が嫌で逃げた人が逃げられないように退路を断つんだから」

アンリ、とエミルがもう一度窘めた。
仮にも次代の男爵、次代の領主が国家の悪口など許されるわけがない。
アンリは「解ってるよ」と言った。


「そんなことよりもセナ、君は歌手?さっき屋敷から見てたんだ。妙に人が集まってるなって思って。そっちのフード被った兄さん‥‥クロ‥だったよね、君は何を演奏してたの?音が微かに聞こえたんだ。ほとんど風音に掻き消されちゃったけどね」


「俺は笛を吹いてる。セナは今日、初めて人前で歌ったんだ。元々は歌手じゃない」


「ふうん、そうなんだ。ねぇ、今度は僕のために歌ってよ。屋敷へ招待するからさ」

アンリに手を引かれて歩き出す。
勝手に知らない人を屋敷に入れて良いものなのだろうか。
エミルは特に気にする様子もなくアンリの後ろをついていく。クロは私の横に付いて歩いていた。








[*前へ][次へ#]

15/24ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!