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TRIP
2.

坂を上りきり、目の前に広がったのは大きな港街だった。
遠目からでも活気に満ちた市場に大きな教会、高い灯台、たくさんの船が並ぶ波止場が見える。
坂を下り、街に近付くと人々の声が良く聞こえる。私はキョロキョロと周りを眺めていると「おい」と、クロに声をかけられた。


「何?」


「入るぞ」

クロが入ったお店に続いて入るとそこには服が沢山置いてあった。


「好きなのを選べ。そんな格好では動きにくいだろ」

驚く私にクロは銀貨2枚を押し付けた。


「いいの!?」


「そんな格好だとただでさえ目立つのに余計に注目を浴びる。‥‥俺が迷惑なんだよ。さっさと買え」

そう言われて私は袖に柄の入っている長袖の白い服に茶色の袖の無い上着を重ね、黒の長ズボンを選んだ。


「そんなのでいいのか?」

クロが確認するように聞いてきた。
女はズボンなど穿かないのが普通で私にとってもこの格好は男装をするような感覚だ。


「動きやすいし、安いし、女らしい服を着るよりは狙われにくいと思うの。クロはフレルに着いたら居なくなっちゃうんでしょ?極力危険は回避しなきゃ。私が街に帰って、もしクロが街に来たらお金はちゃんと返すからね」

支払いをしようとクロから貸してもらった銀貨を店の主人に渡すとギロリと睨まれた。


「その服、そいつが着るのかい?」


「いいえ、私が着ますが‥‥何か問題でも?」

無愛想な言い方に少しムッとしながらもそう聞くと途端に笑みを浮かべて、


「いいえ、いいえ。それならば何の問題もございません」

と言った。ということは人によって態度を変えるのか。
自分の中で何かが切れた音がした。


「なによ、その態度!クロだったら‥‥ちょっ‥‥ムガムガ」

後ろにいたクロに口を塞がれた。


「すいません、すぐ出ていきます」

クロは私が握っていた手を指で一つずつ外し、銀貨を落とすように机の上に置いた。お釣りをクロが受け取るとシッシッと手で追い払われる。
店を出るまでの間、クロは何も言わなかった。


「どうして文句を言わなかったのよ!ああ言われても悔しくはないの!?」


「‥あれぐらいで怒ってたらきりがないし、言い返して揉め事を起こすよりは言わせておけば良い」


「だからって‥‥!」

そこまで言って周囲の人が遠巻きに私達を見ていることに気が付いた。
クロは舌打ちして私の腕を掴んで歩きだした。


「ちょっ‥、ちょっと!?」

そうして連れてこられたのは街から少し離れた古い小屋の中。
誰も居ないことを確認してから手を離された。


「着替えろ」

と言って、麻の袋を投げつけクロは出ていった。
カビの生えた壁や床に散らばっている道具からここが猟師小屋であることがわかる。
言われた通り着替え、袋にドレスを入れ、外に出ると音が聞こえた。切り株に腰掛けたクロが笛を吹いているのだ。
初めて聞いたその音は何処か寂しそうに聞こえる。


「クロ」

声をかけると不意に吹くのを止めて立ち上がった。


「行くか?」


「うん、クロ‥‥いつもあんな風に言われてるの?」

「別にセナが気に病む必要はない」

ここでは普通の反応なんだ、と言われて心が痛んだ。もしも私なら堪えられないだろう。








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