半熟騎士の日記帳
第一章 港町・シャロン
「あれって……何だ?」
問われ、アシュレイが、少しばかり声を大きくする。
「ほら、ディオンの実のシロップ漬。美味しかったよねぇ〜」
ディオンの実。
秋に採れる、拳大の、甘みの強い果実である。
真っ赤に輝く取れたてのそれを、何度も蜜に漬け込み、これでもかというほど甘くした食べ物。
想像して、バートは、胸を押さえる。
こころなしか青ざめた表情で、彼は、呻くように言った。
「う……。なんだよ、それは……」
「何って……ルーメルおばさんのディオン・シロップだよ? 美味しいので有名だったじゃない」
「……聞くだけで、甘そうだ…… - - 」
顔をしかめるバートに、アシュレイは、ようやく友の嗜好を思い出す。
「ああ、バート、甘いの苦手だったっけ」
あっけらかんと言う友人に、バートは、据わった目を向けた。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が流れる。
といっても、そんなものが長く続くはずもなかった。
相手は、アシュレイである。
「でも、ほんと、懐かしいね。何もかも、昔のまま」
何事もなかったかのように、話題を続けるアシュレイ。
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