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半熟騎士の日記帳
第一章 港町・シャロン
 だが、地方の都市は、それぞれに事情が違う。
 今は、交易期(シーズン)である夏場とは比べ物にならない静けさが、この港町を覆っていた。
 それに。
 港が凍っているとはいえ、冬期休暇までは、まだ数日ある。
 子供たちは、まだ学校に通っている時間だ。
 親たちは、といえば、実入りの少ないこの時期は、出稼ぎに出て町を離れる者も多い。
 そんなわけで、馬車の窓から見える人影も、まばらであった 。
ここ、シャロンにも、他の町と同じく、町の入り口から領主の屋敷に向かって伸びる大通りがある。
 彼らの乗る辻馬車は、その道をまっすぐに進んでいた。
「変わらないもんだね、故郷って」
 窓から身を乗り出し、周囲を見渡しながら、アシュレイが言う。
「ほら、あそこ。ルーメルおばさんの果物屋」
 指さすのは、こぢんまりした一軒の店。
 二人が子供の頃から女手一つでこの店を切り盛りしているのは、ルーメル・シュリク。子供好きの女性で、彼女の店からは、いつも、誰かしら仲間たちの笑い声が響いていた。
  彼女は、既に、おばさんというよりもおばあさんと言った方が近い年齢になっているはずだ。
 バートが皮肉にそう考えていると、突然、
「そうだ!」
 ぱんっ、と両手を合わせ、アシュレイがさけんだ。
 目を輝かせる。
「ルーメルおばさんといえば! あれ、まだ売ってるかなぁ?」
 話題を振られた方のバートは、何の事だかわからない。
 彼は、ぱちくりと一度、瞼を瞬かせた。


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