半熟騎士の日記帳
第一章 港町・シャロン
ガタゴト、ガタゴト。
単調なリズムを刻みながら、 どの町にもあるような、平凡な二頭立ての辻馬車が 、石畳の道をゆっくりとした速度で走っていた。
四角いフォルムの客室部分に乗っているのは、二人の青年。
バート・クリストとアシュレイ・ィル・ラナフォードである。
この国では珍しい、黒い髪と黒い瞳の持ち主は、バート。
赤毛に近い茶髪に、バートと同い年とはとても思えない童顔の持ち主は、アシュレイ。
五〜六人乗りを想定した馬車の客室に、客と言えば、今は、小柄なこの二人だけである。
大荷物であることを差し引いても、ずいぶんと、ゆったりと座れた。
彼らは足元に荷物を置いて向き合うようにして座っている。
バートとアシュレイ。 二人はともに、この国の中でも一・二を争う由緒ある家系の出だ。
共に、 昨年、近衛騎兵隊に配属されたばかりである。
王家直属の政治顧問。国家の治安を担う武装警備隊。王族の後見人。対外交渉の担い手。各町の警察隊。
様々な顔を持つ『騎士団』の中でも、名実ともに先頭に立つのが、彼らの所属する 近衛騎兵隊である。
とはいえ。
今回の旅は、近衛騎兵隊の任務ではなかった。
彼らは、つい三日前、数ヵ月ぶりに、王都での務めから、しばしの間ではあるが、解放されたばかりである。
二人は、休暇を取ったその足で、南へと向かう乗合馬車をつかまえ、途中何度かの乗り換えを経て、ここ――港町・シャロンへとやってきていた。
ウィムレシア王国への玄関口でもある交易都市だが、冬場には海路が凍てつき、港が閉鎖される。
今は、王都が社交期(シーズン)を迎え、賑わいを見せ始める、十一月の末。
先日、王宮で行われた『初め の宴(そめのうたげ)』には、大勢の貴族や騎士が招かれ、大いに沸き、踊り明かしたものだ。
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