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それは、あっという間の出来事で



秋になって半ば、日が落ちるのも随分と早くなって。あたしはテニス部で、この季節はボールが見えなくなったら部活が終わり







部活が終わってから暫く皆で部室で他愛のない話をして、いつも一緒に帰ってる子が今日はバスだったから、あたしは皆より先に部室を出て駐輪場に向かった






『あー、月綺麗・・・』


なんだか月を見てると心が落ち着くなーなんて周りに人がいたにも関わらず、一人感傷的になってたら駐輪場に着いてて、自転車に鍵を差し込んだ



ガシャン



いつも通りスクバとラケットをかごにに入れて、いざ座って自転車で走り出したら




ガコン ガコン




後輪に感じた違和感


うそ、まさかね・・・
嫌な予感がして直ぐに自転車を止めて、後輪のタイヤを触れば、いつも以上に柔らかになっていて、



『ありえない。なんで?!てか、やった奴馬鹿だろ』



最悪だ・・・
パンクさせられてるだなんて
全チャリのあたしに家まで歩いて帰れと?!



『どんなけあたしの事好きなのよ・・・』



言ってて虚しい台詞も今だけはそうでも思ってなくちゃやってられなくって



「一人で自惚れてるとこ悪いんやケド。自分相当変な目で見られとるで」



少しビックリして、それから声がした方に振り向けば、





『、し、白石・・・?』


男テニは今日、渡邊先生のお笑いなんとかでとっくに帰ってたんじゃないの??


そんな疑問を抱くあたしを見透かしたように、このあまりにも整った顔をした男は口角を上げた




「オレか?オレは自主練しとったんや」


こんな時間まで一人でって事だよね・・・
流石だなって、凄いなって、素直に思った





「んで。どないしたん??いきなり自転車止めよって」

ああっ!
そうだった!!




『自転車が、自転車の後輪がパンクさせられちゃってて・・・』


すっかり忘れてたケド、ホントどうすんの?!
学校から出てるバスもさっき行っちゃったみたいだし・・・
やっぱり自転車押して帰らなきゃなの??



白石を見ると何やら考え込んでいる様子




「スクバとラケットしょえるか?」


『ぇ、あ、うん』



「そか。ほんならそんチャリここに置き」



ここって言うのは駐輪場で。あぁ、白石はあたしに諦めて歩いて帰れって言ってるんだなんて少し哀しくなった


一人しょぼくれてると、ちょい待っとって、って引き留められた



『はぁ、何であたしの自転車なんだろ・・・。ついてないなー』


今日に限っていつも以上に足が重いっていうのに・・・




「待たせたな。さ、行くで」


いつもあたしが登下校している白石を見た時は、確かラケバは背中にしょってたんだけど、何故だか今は前かごにラケバが積まれている





『あ、あの。おっしゃってる意味が良く解らないのですが・・・』


い、行くって何処へ?
ああ、あたし何か悪い事でもした?!




「せやから・・・。ほれ、はよ座り?」


ほれって言って指示された場所は白石の後ろ
つまりは荷台で・・・


これって座れって事だよね・・・?




『、えっと。あ、あの・・・ね。あたし、重いよ??///』


「誰が乗せる言うたん?」


って、ちょ、え?!
乗せてくれるんじゃないの??
あたし一人こんな勘違いしてたとか、ちょー恥ずかしいんですケド・・・!!///
なんかもう涙で前が霞んできそう・・・




『だ、だ、よね。じゃ、ね・・・』


ちょ、リアルに恥ずかしい


恥ずかしくていてもたってもいられなくなって足速にその場から立ち去ろうとしたあたしの頭にのっかったのは紛れも無く、白石の手で・・・



『なっ、にょ・・・。早く行けば。・・・へ??』


瞬間宙に浮くあたしの身体


「ん。堪忍な。ちょーっと、意地悪し過ぎたわ。しっかり掴まっときぃ」



白石はあたしを小さい子を抱き上げるみたいに脇に手をいれて、自転車の荷台にあたしのことを座らせた


『?!///なっ、』

「これのどこが重いねん。ちゃんとご飯食べなあかんで?」


『、ひ、人並みにはちゃんと食べてる・・・』



自転車をこぎだした白石の淡い色素の髪があたしの頬をかすめる


心臓が煩い・・・
これだけ距離近いのにこんな鳴ってたら白石にバレちゃうじゃん



でもね、
ずっとこの前でいたいだなんて想ってるあたしがいて。白石もそう想ってくれてるといーなって




『はぁ』


「なんや随分落ち込んどるなぁ。そないパンクさせられとったのショックやったん?」



『、んー』




「俺は、苗字と一緒に帰れるよぅなったから嬉しいんやけど?」


『んー、あたしも・・・』

白石もあたしと同じ事思ってたんだ
って、ん??

『なっ?!へ、は?///』


アレあたし、さっきとんでもない返事しちゃってたよね!?



「どないしたん。忘れ物でもしたんか?」



『わわわ、忘れ物とかじゃなくって!///』



「ん?」



『だっ、だからそのっ///あ、あああたしは別に白石の事「俺な、もう、結構前からなんやケド、好きな子おんねん」』


?!
今このタイミングでそんな事言ったら、あたし、・・・


「そん子はぬけてて、いつもヘラヘラしとって。でもな」


ねぇ
今だけはあたし自惚れてイイよね?


「自分の好きな事に対してむっちゃ真剣やねん」


『そ、なんだ///』


あたし今絶対ありえない程顔真っ赤だ・・・
だ、だって、暑いもん


「唯、どうもこういう色恋沙汰が苦手らしくてな?」


こういう色恋沙汰って?って聞き返そうとしたあたしの耳に入ってきたのは、キキィという自転車を停めた音


思わず俯いていた顔を上げると、後ろを向いた白石の瞳にあたしの真っ赤な顔が写った



「ほら。俺まだ何もしとらんのに、こない顔赤くさして」


『?!///』


「ま、そんな謙也並に純情なとこもかわええんやけど」




「なぁ苗字。そろそろ俺が言いたい事解った?」


えーと。
つまりは、あたしは白石の事好きで?
白石はあたしの事が・・・??

いやいや
ナイよそれは。白石に限ってそんな



あたしは白石に返事する代わりにブンブンと首を横に振った



「顔真っ赤にさしとんのに解らんの?せやなぁ、やったら遠回しに言っても通用せんな」


「ま、早い話。そんな鈍感なトコロとかも含めて苗字の事好きやねん」






次の瞬間、触れた唇の熱に犯されてしまったのがあたしだけでなく、貴方もでありますようにと星に願ったある秋の日


あきゅろす。
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