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短編集
異例
 いったいどういう事だ?
 この場にいる全員が疑問に思ったはずだ。

 聖杯戦争において、マスターとサーヴァントの存在は変わらないはず。現にアーチャーもわざわざ召喚されたというのに。ランサーにはマスターがいない?

「ランサー、それはどういう意味なんだ」

 俺の言葉に耳を傾け、同時にセイバーやアーチャーへ向けられていた視線をも俺に移した。

「別に意味なんてねぇよ。言葉通りだ。どういうカラクリかは知らねぇが、俺が気付いたときにはマスターなんていやしなかった」
「それじゃあ、貴方はどうやって魔力を供給して……」
「知るかよ。だが戦う分には問題ないんでね。俺が興味あるのは、戦って勝つことだけだ」

 セイバーの質問を抑え込み、ランサーはそんなことに興味はないとはっきり主張した。だが、この状況は異常過ぎる。

「嘘は言ってないようだなランサー」

 黙認していたアーチャーが口を挟む。

「そんなことで嘘を吐いたところで貴様ににメリットがないだろう」
「なかなかの推察だと誉めてやりたいとこだが、あいにく俺にはどうでもいいことだ」

 ランサーはそう言ってきびすを返す。問答は終わりだと、ランサーはこの場を改めるつもりだ。そのランサーに、遠坂がまたもや声をかける。

「待ってランサー」
「今度は何だ?」
「マスターがいないなら、貴方の聖杯への望みは何かしら」
「俺はそんなものに興味はねぇよ。戦えればそれでいい」
「そう。なら、私達と手を組まない?」
「なっ!? 遠坂?」

 遠坂のまさかの申し出に俺は驚くばかりだ。ランサーとも組むと言うのか。

「凛。正気ですか?」

 さすがのセイバーも確認してしまうほどだ。

「あら。別にいいじゃない。ランサーは戦えればいいって言っているのよ。それにマスターがいないなら、何も自分一人が勝って聖杯を手に入れなきゃいけないわけじゃないんだし」

 呆れるくらいにしれっと遠坂は言いのける。これはもう何を言っても動かないな。

「それでランサー。答えはどうかしら」
「ははっ、相変わらず面白い嬢ちゃんだ。あんたと組むのは別に悪くねぇが、あいにく俺はセイバーやアーチャーと組む気はねぇな」
「ふん、同感だな」
「アーチャー」
「まぁそういうわけだ。俺は俺で勝手にやらせてもらう」

 ランサーは今度こそ飛び去った。あの動きを追うのは容易じゃない。

「凛」
「いえいいわ。今の段階では倒すよりも、現状を把握しないとね」

 アーチャーは追うべきか遠坂に確認する。その点については俺も同意だ。セイバーにも追うのは控えてもらった。


 その後今後の動きについてだが、明日には早めに教会に行ってみることに決まる。今日はもう早めに休むことになった。けど、俺は日課の魔術の練習を怠るわけにはいかない。少し早めに切り上げればいいだろう。そう考えていたのだが。

「士郎。何処に行く気ですか?」
「え? いやちょっと……な」

 何と納屋の前でセイバーに出くわしてしまった。

「明日は早いのですからもう寝てください」
「……あぁもう、わかったよ」

 どうやら俺の思考を読まれたらしい。見付かってしまったのなら仕方ない。今日のところは諦めておくか。
ちゃんと自分の部屋に戻るか疑われているらしく、セイバーは俺のあとをトコトコとついてきている。まぁそれはいいのだが。

「何でセイバーまで部屋に入ってきちゃったんだ?」
「何を言っているのですか士郎。聖杯戦争が再び始まったとなれば、私がそばにいないと危険です」

 ……ん? それはつまり……。

「えぇと、セイバー? それはもしかして俺の部屋で寝る気か?」
「はい。そのつもりですが?」

 ……。不思議そうな顔をしてるな。
やっぱり一緒の部屋はなぁ。遠坂もいることだから出来れば御免被りたい。ぎゃあぎゃあと言い合ったあと、前回同様にセイバーは隣の部屋ということで落ち着いた。



§



 真夜中に森を駆ける影が一体、存在していた。

「バゼット……」

 マスターの影は何処にもいない。前回の時の記憶が鮮明に蘇る。前回のマスターは確かに死んだ。否、殺された。
 セイバーやアーチャーのマスターが同様だからといって、死んだマスターまでが生き返るわけがない。

「……ちっ」

 どうも調子が悪い。ランサーは自分らしくない思考に焦燥感が募る。マスターがいないことはどうでもいいが、妙であることは確かだった。そしてもう一つ、まさに気に喰わないことがあった。

「……そこにいるのは分かってんだ。姿を見せな」

 視線を感じるが殺気はなく、何か行動を起こす様子はない。

「中々鋭いではないかランサー。いや、クーフーリン」
「……っ!?」

 聞き覚えのない声だった。実際、そいつは見たことがない。生前も、前回の戦いでも。
 そしてランサーはまだ手の内を晒してはいない。アーチャーとの競り合いを見ていたとして、ランサーと分かっても、真名を何故こいつは知っているのか。

「てめぇ、サーヴァントか」

 魔力は感じることが出来る。口にした言葉からも、聖杯戦争の関係者であることは確実だった。

「ふふっ」
「答えろ!」

 ランサーはその手に槍を構えた。ただ笑うだけの相手は得体が知れない。何なんだこいつは。戦場を戦い抜いた者の第六感が、こいつは何かやばいと警鐘を告げていた。

「そう身構えるなよ」
「答えねぇってことは、俺の敵ってことでいいんだよなぁ!」
「ようやく貴様の番というわけだ。ランサー」


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あきゅろす。
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