短編集 オタク奮闘記Y 予想通りというか、分かり切っていた展開になってしまった。案の定気持ち悪くなってしまった恋姉をおぶさって、今度はゆっくりと歩き始める。 「まだ気持ち悪い?」 「うぅん、少しはマシ」 「そっか」 特に会話がなくなってしまう。まぁ話すべきことがなくなってしまい、少し間が空いてしまっただけなんだが。 こんな遅い時間だからか、少しは人気(ひとけ)もあった駅から、徐々に妙に静かとなる。 そんな無音の時間が過ぎて何分経っただろうか。 腕時計は家に置いてきたままで、携帯はポケットに入ったままだ。時間を知る術はなく、随分経ったように感じた。 さっきまで騒がしかった恋姉も、もう寝てしまったみたいだ。 自分の足音だけが響いていた。 「おっきくなったね」 と、寝てしまったのかと思っていた恋姉から突如声を掛けられた。 「え?」 「マー坊……。ちょっと前まではこんなだったのに」 恋姉はそう言って、俺に見えるように手で五センチメートルくらいの大きさを示す。 「虫じゃあるまいし、いくら何でもそれはないだろ」 「え〜〜? そうだったかな?」 恋姉は何故か不思議がる。昔の俺は何だったんだか。 「本当はさ。こっちに来たの、マー坊に会いたかったからなんだよ」 「え?」 恋姉の言葉にドキッとする。それってどういう意味なんだろうか。 「恋姉?」 次の言葉を待ったが、紡がれる様子はなく、もやもやとしてしまい催促する意味で呼んでみた。すると、スー、スーと寝息が聞こえてきた。 「……何だよそれ。いつもの冗談か?」 かなり続きが気になるのに。とんだおあずけだ。本当に変わらない。いつも、昔から俺は、恋姉に振り回されっぱなしだ。 しばらく会っていなかったのに、突然転がり込んできて、今も突然呼び出されてお供をしている。 ……どうせ今のも、思い付いた冗談か、何かだろう……。 そして明朝、俺は恋姉に見つかる前にオタグッズ運搬作業を行うべく、早起きすることに成功出来た。一番問題だったのは、家を出る時に恋姉に見付かってしまうことだったが、難なくクリア出来たのだ。今日は土曜日であり、恋姉を起こす必要もなく、怖いくらいに都合が良い。 当然一回くらいの持ち運びでは運び切れないので、日を追って往復する必要がある。うまく分割させたがそれでも大層な量だ。恋姉の荷物が異常な量だったのも、少し分かる気がするというものだ。 「うわっ、すげぇなそれ」 電車を乗り継ぐのだから、かなりのカムフラージュはしたものの少しは目立ったと思う。部室に来てみれば、ユッキーが驚いて見せていた。 「どうしたんだそれ」 「ユッキーにも話しただろ。今従姉妹が来ててオタクだってバレると不味いんだ」 「あぁ、あれか」 「けどすごい量っすね」 と、ユッキーと同じく部室でたまたまたむろっていた後輩が目を輝かせていた。 「いやまだあるからな。あと大事なんだから触るなよ」 「あっ、これやりたかったんすよ。借りていいっすか」 聞いちゃいねぇ。これだからオタクは困るんだ。って俺もか。 「貸してもいいけど、部室内でだ。持ち出し禁止」 「ケチだな。これだからオタクは困るんだ」 と、ユッキーにダメ出しされてしまった。いやいや、明らかに俺より濃いユッキーには言われたくない。 部室内には各々が持参したノートパソコンがあった。まぁ大半は学校モデルの奴なんだが。後輩はあっさりと了解して、さっそく自分のノートパソコンにインストールしていた。 「マー坊」 「その呼び方はやめろ」 ユッキーの奴までが、その名で呼ぶ。早々に指摘したんだが、まぁそれはどうでもいいんだ。とか言って話題に入った。どうでもよくないんだよ。 「わざわざ部室に持ってきたってことは、その従姉妹には隠し通すつもりなんだよな?」 「……? ……ああ」 何でそんなことを確認したのかは分からないが、その通りなので肯定した。すると、ユッキーは批判を口にした。 「やめとけよ。しんどいだけだ」 「なんだそれ?」 ますますもって分からない。 「だから、従姉妹にオタクだって秘密にすることだよ」 つまりはそういうことらしい。けど、ユッキーは分かってない。 「いや無理だ。バレたら殺されてもおかしくない。恋姉は全く免疫がなさそうだし」 「……んー、そうか」 そう言って、ユッキーはガシガシと頭をかいて何かを考えている。そして自分の飲みかけのお茶を口に含んだ。 「マーぼ……衛はさ、俺に彼女いるの知ってるよな?」 俺が指摘するように睨んでやると言い直した。 「知ってるけど? 別にノロケ話は聞きたくないぞ」 ミッキーがいたなら、ネコ化して暴走してるかもしれない。 「いや。別に俺だって話したくないな」 「?」 じゃあいったい何なんだ。いつもは、例の危険なゲームを薦めてくるくらい、はっきりしてるのに。今は珍しく随分もったいぶっている。 「じゃあ、俺の趣味が彼女にバレたことも知ってるよな?」 「ああ、知ってるよ」 「その後のことは知ってるか?」 「後?」 そういやバレたのは聞いたけど、その後どうなったかは知らないな。別れたとか聞いてないし、ユッキーもいつも通りだから、続いていると思ってたが。 [*前へ][次へ#] |