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短編集
彼女はサンタクロース?[
「あ!?」

 突然、思い出したようにユイは叫んだ。びっくりして俺は尋ねる。

「どうしたんだよいったい」
「誠一君の欲しいもの探してないじゃない!」

 今頃思い出したようだ。どうやら窓の外に、サンタクロースのネオンサインまであったかららしい。やってくれる。

「あぁ、でもまぁ今日は無理かな。遅いし」
「むぅ。忘れてた……」
「忘れるほど楽しんでくれたのか」
「ち、違う!? そうじゃなくて。別に楽しんでないし、もう来たくな……いわけじゃないけど……」

 目的のためなら、嘘でも可愛く振る舞うくせに、ユイはあまり本音は語らない。まぁだからこそ可愛いと思えた。

「と、とにかく。明日はちゃんとしてよね」
「あぁ、善処するよ」


 帰りの電車のなか、ユイは眠っていた。はしゃぎ過ぎたのか熟睡のレベルだ。俺の肩にユイは頭を預ける。心臓がバクバクと鼓動して、俺も眠たいはずなのに、眠ることが出来なかった。

 こうして、二十三日を終えた。そしてついに二十四日を迎える。一年に一回街が彩られる特別な日だ。


「く……」
「おはよ」
「おはよう……」
「どうしたのいったい」

 不思議そうにユイは首を傾けていた。その仕草も可愛いなぁ。
 いやいや、俺が見たいのはそれもだけど、それじゃない。朝の寝起きの顔が見たいのだ。
 しかしまた負けた。今日もユイのほうが起きるのが早かった。仕方なく、すぅすぅと寝息を立てるユイの姿を思い浮かべる。うん、きっと可愛いに違いない。もし本当に出くわすことが出来たなら、そのまま抱きつくかもしれない。いや抱きつきたい。

「変な顔……」

 しまった。本人の前であらぬことまで妄想をしてしまった。今日という日もあってか、少しはしゃいでしまっているようだ。

「早く支度してよ」
「分かってるよ」

 適当に返事をして起き上がる。支度をしながら今日は何処へ行くべきか考えた。そして、机の中にしまっていたあるものを思い出す。確かまだ残っていたはずだ。
 引き出しを開けて有無を確認すると、俺の中で今日の予定があらかた決まった。

「何処行くの?」
「ついてくればわかるって」

 今日もユイのコーディネイトは可愛かった。
 ベージュのもこもこしたセーターを着て、その上にカーキー色のコートを羽織っていた。下は、黒いストッキングに、チェック調の濃いめの茶色い短パンで、真っ黒のハイカットスニーカーを履いていた。

 着いた場所は映画館。とっといたものは映画のチケットだ。大学の先輩が、俺に彼女がいないことを知りつつくれたものだ。余ったからとか言ってたが、どう考えても、俺をおちょくっていたなあの人は。まぁ今となっては感謝している。

「どれが観たい?」
「これが誠一君の望み?」

 昨日はつい遊ぶことに没頭してしまった為に、ユイは取り返してやるという意気込みを見せる。だからこそ、ただ遊ぶことはしたくないユイは俺に疑いの目を向けた。

「いやまぁ可能性はある」

 ユイと一緒に映画を見る。俺のやりたいことには変わらないはずだ。

「ふ〜ん、まぁそれならいいけど」


 ユイは何が観れるのか、どんなものがあるのか見比べていた。あるのは、子供向けのアニメ。人気のホラーシリーズの最新作。恋愛もの。つまんなさそうな戦争の話だった。

「よし、ホラー行くか」
「え!?」

 何となく勘を働かせて俺は提案した。ユイは驚いて暗い顔を見せる。

「怖い?」
「こ、こ、怖くなんか……」

 あ、やっぱり予測通りの反応。このままいくと、ユイの本心じゃないホラーものになってしまう。

「冗談だ。俺はホラーは好きじゃない」

 すると、ユイはホッと息をついた。結構分かりやすい反応だ。

「じゃあこれ」

 そう言って、ユイが指差したのは恋愛ものだった。まぁ妥当な選択である。俺たちは映画館の中へ赴いた。

 観ること約一時間五十七分。俺たちは最後まで観終えたあと、映画館の外に出た。ずっとお互い声をかけることなんて出来ない。
 外に出たあとの開口一番は、ユイだった。

「……変態」
「ぶっ!? 待て待て、俺だって知らなかったんだよ」

 映画の内容は、高貴の娘が身分の低い男と恋に落ちるという話だ。もちろん周りは反対したが、娘はその反対を押しきり、男を選ぶ。という大筋はよくある話なんだが、所々で十八禁スレスレな表現があった。キスは当たり前だし、それ以上の展開もしっかり流れていた。

 そのせいで俺とユイは、何となく言葉も交しづらくなってしまう。

「第一、一応選んだのはユイだからな」
「うるさい。……最低!」

 うぐっ……。白昼堂々そんなことを口走るなよな。周りに誤解されるだろ。

「誠一君の望みはこの映画館にあったんだよね?」

 ジトッと軽蔑の眼差しがチクリと痛い。そりゃあ言ったけど、全然内容が違うぞ。

「言っとくけど、俺はこの映画が見たかったんじゃなくて、ユイと映画を見たかったんだからな」
「え、あ、そ、そう……」

 蔑むような眼は何処に行ったのか。ユイは顔を赤らめてしまう。そういう反応されると、俺までとんでもないことを口走ってしまったようで、俺まで恥ずかしくなってしまう。
 互いに口数が減って、何とか落ち着くまで少々時間がかかってしまった。



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あきゅろす。
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