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短編集
教師見習いも一苦労X
そんな保健室での風景が日常となってきて二週間くらいは経っただろうか。変わりなくその日も向かった。

「伸一いるか?」
ただ今日は会えなかった。特にこの時間で会おうという約束をしていたわけではないが、こんなことは珍しかった。
「今日は休みだったのか?」
小西先生もいないようだ。伸一がどうしたのか聞くこともできない。伸一のクラスに行けば確認は出来る。が、何組か聞いていなかったし、そもそもわざわざ後輩のクラスに行くのは嫌悪感が募るだけだ。

「あっ…」
代わりに見た覚えのない学生が何人かいた。大方サボりか。しかし向こうは俺のことを知っているようで、気まずそうになる。
(何もしねぇよ別に)
気分が悪くなった。ここ最近、この場所だけは安らいでいたはずだが、何か一つ違うだけで百八十度変わるようだ。俺は身を翻して再び扉をくぐり部屋を出た。
そうなると、もう居所はなくなる。学校には何の価値もなくなるのだ。もう帰るか。そんなことさえ考える。いや、どうでもいいか。
見飽きた校門をくぐり、校外へと出る。学校にまで足を運んだが何もせず帰ることになってしまった。時間の無駄だったな。

帰路の途中、駅の構内に入る。視界に入るのは学校の制服姿の連中だ。俺と同じようにサボっている奴らだな。五人いるそいつらは、煙草をくわえ、髪を染めあげている。服も乱していて一目で不良だと分かってしまう。やっぱ俺とは違うな。俺は服をきっちり着ているわけじゃないが、あそこまで乱していないし、髪も染めていない。煙草は吸えないしな。おっと、よく見るとピアスまでしている。随分と徹底していると感心してしまうほどだ。
向こうも俺の存在に気付いたらしく、俺は視点をそらす。おもむろに顔は背けずに。こういう連中は気にしないことだ。何がこいつらに勘に触り、因縁をふっけられるか分からない。

「…おい」
ちょうど横を通りすぎようとしたところ、肩に手を置かれて呼び止められる。心の中で溜め息を吐く。目立たないように振舞っても、こいつらにとっては何が目に留まるのか予測不可能だ。もしかしたら向けた視線に気付かれたと危惧する。
「お前、豊城だろ?」
だがそれは杞憂だった。しかし、今までの素行の悪さか、名を知られているらしい。とことん今日は運が悪いと言える。
「…人違いじゃないか?」
「あぁ?」
「とぼけんな。俺らんとこの奴も殺られてんだ」
俺からふっかけたんじゃなく、そいつから喧嘩を売ってきたんだろう。何処の誰かは知らないが、確率から言ってそいつから喧嘩を売ってきたに違いない。とはいえ、そんなことを言ってもしょうがない。連中は俺を囲むように近付いてくる。
「ちっ…」
俺は逃げ場を失う前に走り出す。
「あ、待ちやがれコラァ」
ただ喧嘩したことがあるだけ。何にも心得ていない俺が五人相手に勝てるわけがない。何度か場慣れしている程度では、勝ち目があるわけがないし、むしろ無理であることをいち早く察知できていた。
階段を駆け登り、駅の外へ飛び出す。しつこいながらも追っ手はまだ諦めない。なかなかに速く、まだ俺が視界に見えるのだから、諦めることはしないだろう。身を隠すことを考えた。

適当に塀を乗り越えて身を隠す。乗り越える姿は見られなかったのか、奴らはそのまま通りすぎていった。
「はぁ…やれやれ」
逃げるために走っていたから、此処が何処だか分からなくなった。ここら辺は学校があるから駅から降りるだけで他に用があるわけがない。
「…病院か」
こんなところに病院があったとは知らなかった。どうやら裏の塀をよじ登って侵入したせいで、気づかなかったらしい。とにかくここで時間を潰すことにしようか。そう考えたときだ。
「おい!いたぞ!」
「…!?」
追っ手の奴らに見つかってしまい、あっという間に回りを取り囲まれてしまう。
「もう逃げられねえだろ」
その通りだなと思った。だが黙って殺られるのも釈だった。
「…っ!」
それにこいつらは、抑えることを知らない。躊躇もなくいきなり殴ってきた。
「…ってぇ」
「あぁ?」
周りの奴は逃げないように壁となるだけで、手だしはする様子はない。ニヤニヤと下品にうすら笑っている。また同じ奴が振りかぶった。
「聞こえねぇよ!」
「…ってぇんだよ!」
相手の拳が届く前に、俺の拳が先手をとった。顔面に受けたそいつは、思ったより浮いた。
「…のヤロウ」
が、沈まなかった。一撃で落とさなければ意味がない。
「ぐっ…」
背後からの奇襲。その隙を狙って前から拳が飛んでくる。かと思えば、何処からか蹴りさえ襲う。
何とか拳を振るう。痛手を負わしてはいるが、破壊力が足りないのか、沈まない。やはり五対一では勝ち目などあるわけがなかった。

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あきゅろす。
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