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短編集
冤罪注意報
僕は急いで駆ける。入社二年目の僕はまだまだ新人扱い。それでも業績を伸ばそうと、失敗を繰り返しながら色々と奮闘する毎日を送る。無遅刻、無欠席になるよう頑張っていたが、今日は少し寝坊してしまった。おかげで電車に乗り遅れそうだ。
「あ…乗ります、乗ります!」
毎度ながら自分でもよく飽きないなぁと思える朝だ。満員電車に対しても戸惑いはなくなり、押し退けるように体をねじ込んだ。少しきつい視線を感じるも、それにももう慣れた。何とかいつもの時間に乗れて一安心だ。
「っと…」
しかし今日もまた一段と凄い混み具合だ。乗ったのはいいが、ほとんど身動きが取れなくなっている。吊革を掴んで自分の体勢を保たせようにも、既に空いてる隙間はない。ま、こんだけ混んでるんだからそれもそうだ。電車の扉付近にある取っ手を掴む。それで二駅ほど揺られていた。

「んっ……」
「…!?」
いきなり耳に入った声に驚いた。僕の前にいる女子高生が発している。朝からそんな甘ったるい声を出すなんて。いやもしかしたら気分が悪いだけで、たまたまそう聞こえただけかもしれない。そう考えを改めた矢先、僕の手が掴まれ、背中で絞められてしまう。
「えっ…ちょっ…いた、たたた…」
「見つけた。朝からこんなことして恥ずかしくない?とりあえず次の駅で降りてもらうから」
「えぇ?」
いったい何がどうなっているんだ?僕はいきなり拘束されてしまう。さっき前にいた女子高生は何やら泣いているようで、周りから受ける視線は一層冷たい。満員電車を無理矢理かき分ける比じゃない。浴びる罵声には「痴漢」という言葉が占めている。

痴漢?僕が?
「ち、ちがう…!」
僕が痴漢をしたことになっているのか。そんなことに気付くのが遅かった僕は懸命に無実だと主張する。
「そりゃ違うって否定するでしょうね。けど言い逃れはきかない。次で降りて。逃げたら承知しないから」
「い、いたたた…」
ギリギリと腕はあらぬ方向へと捻られる力が増す。僕の手を離そうとしない女性はもの凄い力だった。逃げたくても逃げられるわけがなかった。

「だから…僕じゃないって」
「よく言うんだよ皆。早く吐いたほうがいいぞ」
駅に降りた途端、僕は個室に連れていかれる。いきなり座らされると、取り調べまがいを受けることとなった。僕の後ろにはさっきの怖い女性が立っている。そして目の前には取り調べに慣れている怖い駅員さん。その向こうに痴漢されたらしい女子高生が立っていた。
「往生際が悪いわよ」
後ろの女性までが僕を攻める。何で普通の人がこんなに言うんだ。
「あの…この人は何なんですか」
僕はたまらず尋ねた。
「ああ、この人はベテランの刑事だよ。分からないのも無理はない。なんせ見掛けはそこらのガキ…」
そこで駅員さんは言葉を切る。何故かすぐに分からなかったが、僕の横から見えた拳銃で全てが把握出来た。
「…へ〜、まさか大塚さんがそんなこと思ってたなんて初耳。もしかして胸のこと言ってんの?私嬉しくてつい弾いちゃいそう」
そんな危険な発言をしながらガチャとリボルバーが回され、しっかり引き金に指がかけられている。
「だ〜、待て待て。華澄ちゃん。一般人にそんなもの向けていいと思ってんのか?」
「あらやだ私ったら。ちょっと最近使ってなかったからなぁ」
拳銃を使いなれているのか、くるくると振り回している。
なんて危ない人だ。
「さぁてそれよりさっさと吐いちまいなよ。撃たれたくないだろ」
「それは脅迫ですよ。大体僕はそんなことやってません。信じてくださいよ」
「じゃあ証拠あんのかよ」
「じゃあ逆に聞きますけど僕がやった証拠があるんですか」
僕は負けじと反論した。ここで負けたら本当に痴漢したことにされてしまう。
「…ちっ、香澄ちゃん」
「ふ、証拠も何も。私がしっかりと見たし、あの娘もあんただって…」
「あ、あの…」
そこで漸く女の子が恐る恐る口を開いた。
「その人じゃ……ないと思います」




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あきゅろす。
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