黒を司る処刑人 1:処刑する者、される者V ガラッと教室のドアを開けると、まだホームルームは始まっていないらしく、教室はけっこう騒がしかった。皆各々のグループをつくり、自分たちの雑談に夢中になっている。 扉を開けてすぐに、友人の結城加奈(ゆうきかな)が私たちに気付いた。ふわりと長い髪をなびかせる。綺麗な顔立ちで、おしとやかな印象を持っていた。黒い髪もあってか、外見は大和撫子を思わせる。 「遅いわよ、二人とも。また遅刻だったの?」 「あー、私は違う。遅刻したのは紗希だけ」 優子の返答を聞いた加奈が呆れた顔で私の方を見た。そして顔が訴えていた。また?と。 「あはは……。まいったね」 「笑ってる場合じゃないでしょ。そろそろちゃんと来ないと進級に関わるんじゃない?」 「え……!? そんなにやばいかな……」 あまりに真剣な顔で言われたので、なんか心配になってきた。 「冗談よ」 一転してにこっと笑う加奈。人が悪い。冗談ならもう少しそれらしい顔があるというものだ。 「かなっち〜!」 奥から加奈を呼ぶ声が聞こえてきた。その声の持ち主は多分、ある意味一番の問題児。狭山啓介(さやまけいすけ)だ。 金髪に近いくらい脱色している茶髪が目立つ。校則ギリギリであるようだけど、本当にセーフなんだろうか。優子以上にテンション高く、陽気な笑顔を振り撒いて近付いてきた。 「あ〜もう、うっとおしい」 それを加奈が婉曲もなく、ストレートに拒む。 「酷いな。かなっち。でもそんなツンツンしたかなっちもいいんだけどね。あっ、サキリン来たんだ」 私を見ると、恥じる素振りもなく妙な呼称を口にしてきた。 「誰がサキリンだ!」 そんな呼び方を私は認めていなかった。当然ながら抗議する。 「ふ、照れるなサキリン。とてもいい呼び方じゃないか。僕は……がふっ…!」 どう受け取っているのかわからないが、全く分かっていないようだった。思わずのパンチが見事狭山の腹部にヒットする。うまいこと決まってしまい、狭山はぐったりしていた。 「ぐぅっ……。死ぬときはせめてサキリンの胸の中で……うごっ!」 懲りずによろよろと近付いてきた。ならばと、鞄でトドメをさしてやった。ちょっとやりすぎてしまった気がしないでもないけど、いつものことではあった。 「早くいこ」 「ん。そうだね」 「そろそろ鞄置きたいしね」 二人が同意して三人とも教室の奥へ。もちろん一体の屍は放っておいたままである。 「こらこら。一人忘れてるぞ」 狭山はすぐに復活を果たし、何事もなかったようについてきた。相変わらずめげないなと、こっちが参ってしまいそうだ。 [前へ][次へ] [戻る] |