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黒を司る処刑人
1:つかの間の休息
 夜も更けてきて、そろそろ睡眠に入ろうかという時間。なのに、私の部屋はまだ眠る気配が全く漂わない。
黙々とギルとリアちゃんは私の漫画を読んでいた。両親ともども既に帰ってきてるから、静かにしているのはこの上なく有り難い。だけど、時刻はもう一時を過ぎている。

「そろそろ寝たいんだけど……」

 私は訴えた。寝る準備はもう出来ていて、ベッドの上に座り込む。

「あぁ……」

 ギルは空返事で返す。まるで聞いてなかった。気が抜けているのかゴロンと横に寝転がっている。数日前の死闘による負傷は、ギルもリアちゃんもすっかり傷が癒えていた。今ではこうやって、のほほんと過ごしている。

「ギルがいたら寝にくいし」

 外見、ギルは私と年齢の変わらないように見える。どうしてもその意識は拭えない。同年代の男の子のいる場所で普通に寝るなんてのは、どうしても抵抗がある。

「じゃあ私も寝る」

 興味深々に漫画を読んでいたはずのリアちゃんが、そう言って、ベッドに潜り込む。布団の中に入ろうとしていた。
「って、一緒に寝るの?」
「ダメかな……」

 今までこんな風に頼み込むことはなかった。何処か違うとこで寝ていたのに。トロンとした上目遣いで懇願する。今にもバタッと倒れそうな、幼い少女を追い出すのは気が引けた。
 あれ?
 外見はそうだけど、実際はどうだろう。魔界の住人ということを考えると分からない。

「そういえばリアちゃんって何歳?」
「え?」

 一瞬だけ目を開いて、唐突な私の質問に驚いたが、すぐに目をショボショボさせた。

「むぅ。女の子にそんなことは聞いちゃ駄目。紗希も嫌でしょ」
「……あ、うん」

 この言動が既に幼い少女とかけ離れていた。

「でも私たちの基準からすると、人間でいう子供だから」
「あ、そうなんだ」

 やっぱり幼いらしい。

「ねぇ、じゃあギルは?」
「ん? あぁ……と」

 視線を漫画から天井へと移して、何かをギルは考えていた。

「秘密」

 考えるのを放棄したようで、今度は仰向けに転がり、漫画を高く掲げた。

「教えてくれてもいいじゃない、ケチ」
「誰がケチだ。他のことなら答えてやる」

 ケチと何気無しに言ったのが気に障ったのかもしれない。何処か気のない返事だったのが一変した。ギルは断ったわけだが、これが逆に私にとっては好都合かもしれない。

「そ。じゃあ何で処刑人なんてやってんの」

 前にもした質問をぶつけた。ギルは寝転んだまま私を一瞥し、すぐに視線を漫画へと戻した。そしてため息混じりに言う。

「またそれか。それは前に言ったはずだ」
「答えてないよ。言いたくないって言ってごまかしたでしょ」
「……。気のせいだ」
「あ〜、またごまかしてる。リアちゃんはどう思う?」
静か過ぎるくらいにおとなしかったリアちゃんに話を振ってみた。視線を向けると、心地好い寝息を立てて寝ていた。
「あれ…疲れてたのかな」
あまりにもぐっすり眠りこけるリアちゃんを見ていると、そう思えた。シーツをグッと掴み、枕を半分占領している。眠ってしまったのならと、私は布団をかぶせた。ん〜、寝顔を見る限りやっぱり子供のように思える。
リアちゃんの寝顔を見ていると、限界が近い。眠たくなって欠伸が出る。これまで夜中も起きてたときがあったから、まだ疲れが残ってるかもしれない。
「じゃあそろそろ行く。何かあったら呼べ」
読み終わったであろう漫画を私に差し出し、ギルは窓へと近付く。
「やっぱり屋根にいるの?」
「ん?そりゃそうだろ。近くにいなきゃ奴らが来たとき、行動が遅れるからな」
「そうだよね」
「…何が言いたいんだ?それに寝づらいと言ったのは紗希だろ」
それもそうだけど。外に追い出すみたいでどうにも気持が落ち着かない。
「ちょっと待って」
「あぁ…」
ならせめてと、毛布を引っ張り出して、ギルに手渡す。
「なんだこれは?」
「毛布だけど?寒くなるかもしれないし」
「あぁ…あぁ…」
とギルは一人で何かを納得したようだ。私の差し出した毛布は受け取ることなく言った。
「いらねぇ…。気にしなくても寒くねぇからよ。人間とはそもそも体の出来が違うからな」
「ほんとに?」
迷うことなく発した質問に、ギルは呆気にとられたような表情をしていた。その表情が少し可笑しかった。
「嘘じゃねぇよ。嘘ついても仕方ないだろ」
「いやいや、ギルってけっこう意地っ張りだし」
戻した表情がまた崩れる。唖然としたのか間があった。
「……わぁったよ。借りれば満足か?」
「うん。はい」
ギルは無造作に毛布を手にとり、窓をくぐり抜けて行った。私は鍵はせず、窓を閉めるだけに留め、リアちゃんのいるベッドに潜った。
「んっ…」
隣のリアちゃんが呟く。何か寝言を言うのかと思って少しの間待っていた。けどそれ以降は何もなく、もぞっと寝返りをうっただけだった。
ホントに子供みたい。そう思って私も目を閉じる。明日は遅れるわけにはいかない。早く起きようと眠りについた。

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