黒を司る処刑人 1:波乱\ 「むむ、仕方ないデスネ」 渋々といったところだが、承認してもらえたようで良かった。とその時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。 「あ、早く戻らないと」 「授業に遅れてしまいますネ。あ、何なら私が事情を説明しま……」 「いいですから。兎に角見付からないようにだけお願いします」 いまいちスカルさんの好意なのか、ふざけているのか分からない申し出に、私は両手をぶんぶんと振って即座にお断りした。 「そうデスか?」 スカルさんにも困ったものだが、何とか分かってもらえたようだ。 「ギルもお願いだから大人しくしててよね」 「分かった分かった」 適当なギルの返事に心配を覚えつつも、授業に遅れるわけにはいかない。次は移動する授業だったかなと思考を切り替えて、足を速めた。 「あ〜あ、私も見たかったな」 「そうね、まさか紗希がね」 「だから違うって」 教室に戻った途端、ギルについて突き詰めてきたのは優子と加奈だった。 ちょうどギルがいた時にいなかった二人は、逆に教室にいた皆から事の顛末を聞いていたらしい。それも私から見るに、かなり歪曲した伝わり方をしていると思う。どうも恋愛沙汰となっている。そのせいか、取り調べまがいのような追求に私は冷や汗をかいていた。その時は授業が始まることで難を逃れたわけだが、休み時間になった途端に飛んできた二人によって、再び話が盛り返されているところだった。 「そもそも何でその人は学校に来たの?」 優子がふと疑問を口にすると、加奈がにんまりと答えを予測した。 「決まってるじゃない。紗希を探してたんだし、紗希に会いたくて仕方なかったのよ。きっと」 「いや全然違うから。学校に興味あったから来ただけだし」 「学校に興味?」 「あ、いや……」 魔界の住人であり、処刑人であるギルは勿論学校のことを知らない。だけど外見は普通の男の子なのだから、学校を知らなくて興味があるってのは変な話だ。 むぅ……。 どう誤魔化せばいいのか悩む私だが、そんなことは御構い無しに、二人は考えを言い合っている。 「それってあれでしょ。紗希が通う学校に興味があったって事でしょ」 「いやいや。というより、紗希が学校でどんな風に過ごしてるか気になったんじゃない?」 「……そこまでは分かんないけど」 そうじゃないと否定したい気持ちを抑え、肯定も否定もしないでおいた。 「絶対そうだと思うな」 それは予想というより期待なんじゃないかと思う。 「それで何処までいったの?」 「は?」 突然の加奈からの質問に私は戸惑う。テンションが高まる二人は、目を爛々と輝かせ、うずうずと聞きたくてしょうがないといった様子だ。 「いや、だから別に何も……」 「うんうん」 うわっ。絶対何かあると疑わない。早く教えてと目が訴えていた。 期待されてるようなことは何もない。あえて言うなら、ほっぺを引っ張られたり、頭をキリキリと掴まれたりしてるくらいだ。 ん? よくよく考えてみると、凄い理不尽な扱いをされてる気がする。やっぱりちゃんと言っておかないと。 いずれにせよ本当に何もない。それだけは、しっかりと伝えばなるまいと話そうとした時だ。 「あ、チャイムだ」 タイミングが悪いことに、本日最後の授業が始まる合図が鳴った。そそくさと、後でねと席に戻る優子と加奈。追い掛けようとしたけど、ガラッといち早く先生が入ってきた。それも日本史の嶽内(ごくない)先生。くいっと動かす眼鏡から覗く、鋭い眼光には射抜かれたくない。此処はすんなり諦めるしかなかった。放課後にはしっかり否定しようと、心に決めた。 「じゃあ私部活行ってくるからね」 「私も今日は委員の仕事あるから」 「あぁ……」 しかし、最後の授業が終わった途端に、二人はそれぞれ向かうべきところへ急いで行ってしまった。明日にはちゃんと伝えとかないと。 「サキリン、一緒に帰らない?」 「……む?」 置いてけぼりを喰らってしまった私のところに、狭山が現れた。鞄を肩に担ぎ上げ、いつでも帰れると言いたげだ。私が一人になったのを見越してきたのかと思うと、自然と身構える。 「今日は敏樹が生徒会の仕事で遅くなるって言うからさ。それで一緒に帰る相手が欲しかったんだ」 「それで私のところって……」 「何で一番に優先してくれなかったって?」 「……違う。何でいつもあしらってるのに懲りずに来るのかと疑問に思ったの」 「そりゃあ……まぁ、好き、だからかな」 いつもと同じように繰り返す言葉。だけど、はにかみながら照れたように口にする狭山は珍しい。というか新鮮だ。いやいや、軽々しく好きとか言うなんて、いまいち信用出来ない。 「それに、いつまでも馬鹿やってる場合じゃないかもしれないしね。なんか今日は、それを思い知らされた感じがする」 十中八九ギルの一件だと思う。狭山も親戚だとは信じていないようだ。基本調子良く振る舞うくせに、今回はそうでもない。何だかこっちまでペースが狂ってしまう。 「さっきも言ったけど、そんなんじゃないよ」 「本当に?」 「本当だってば」 「なら、少し安心した。でも帰る相手がいないことに変わりはないから、一緒に帰ろうよ」 「……まぁ、いいけど」 勝手について来たこともあったためだが、一緒に帰ったことがないわけじゃない。大して変わらないと思い、了承することにした。 [前へ][次へ] [戻る] |