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黒を司る処刑人
1:波乱Z
 事の顛末は良く分かった。スカルさんを動けなくしたのは正解だと思うし、リアちゃんが猫好き同好会の皆に捕まらなかったのは本当に良かったと、心から思う。
 だけど最大の問題は未解決のままだ。リアちゃんの話を聞いてすぐ、私は叫んだ。

「ギルを探さないと!」
「うん」
「では手分けして探しましょウ。あ、その前にこれを外してもらうのが先決デスネ。ンン?」
「ギルは私達で探しますから、スカルさんはそのままでお願いします」
「そ、そんな……」

 スカルさんが驚くのも無理はない。身動きが取れそうにない状態のまま放置するのは気が引けるが、リアちゃんから聞いたスカルさんの動向を鑑みるに、解放することのほうが躊躇ってしまう。そもそもスカルさんに原因があるし、自業自得だとも思う。

「ちょ……」

 スカルさんの返答よりも早く、私は梯子を介さずに飛び降りる。そしてすぐさま、屋上と校舎内を繋ぐ階段を駆け下りた。

 まだ昼休みは続いている。一番理想なのは、誰にも見付かることなく、昼休みが終わるまでにギルを何とかすることだ。このままだとギルが大人しくするとは思えないし、嫌な予感しかしない。

「紗希、手分けする?」
「ううん。さっきみたいに騒ぎになったら困るし」

 下手すれば、猫好き同好会の皆が集まってくるかもしれない。まだ狙ってる可能性もある。リアちゃんは知らないだろうけど、それはもうこれまでかというくらい愛撫されるとか。
 捕まらなくて本当に良かったことは、言わないほうがいいんだろうなと思う。

「……分かった」

 何処か歯切れが悪いリアちゃんは、項垂れているようにも映る。おそらくではあるけど、こんなことになった責任を感じているかもしれない。

「大丈夫。私はもう此処には一年以上いるんだから。すぐにギルなんか見つけてみせる」
「うん」

 一応フォローしたのだけど、横を走るリアちゃんはどれだけ納得しただろう。ギルを止められなかったと責任を感じているのは明白だった。

「兎に角早く見つけないと。見つけた後は、リアちゃんにも手伝ってもらうことになると思うけど」
「大丈夫。まかせて」

 心強く返事が返ってきた。リアちゃんは多少、使命感に燃えているようだった。



 昼休みともなると、学校の生徒達は教室から出ている。廊下にも勿論生徒達はいるわけで、猫であるリアちゃんも、見付かるわけにはいかない。ギルほどではないだろうけど、明らかに面倒なことになる。すぐさま横を走っていたリアちゃんを抱きかかえることになった。
まず最初に向かったのは学食である。食いしん坊であるギルなら、食べ物のあるほうへと向かったのではないかと思ったのだ。
 でも、いない。食べ終わったあと、ゆっくりとテーブルで談話している生徒たちが目に入るだけだ。ギルはいない。恐らく部外者であるギルがいるのなら、多少なりとも騒ぎになるはずだけど。……まさかバレずに勝手に潜り込んでるとか?
 ふとギルなら可能だろうし、やりかねないと厨房を覗き込む。

「どしたの?」
「あ、いえ、何でもないです」

 厨房のおばちゃんに尋ねられてしまった。特に問題もなさそうだ。此処じゃなかったかと次を目指す。

「むぅ……」

 次に向かったのは購買である。学食と同じ一階にあり、校舎が別になっているくらいで位置はわりと近いほうだ。パンやら飲み物やら、やはり食べ物が置いてあるため此処だと睨んだのだけど、予想は外れてしまったらしい。
 とするとあとは何処にいるのか。他に食べ物がありそうなとこはない。なら興味をそそるようなところだろうか。

「ねぇ紗希」

 見えないように深く抱え込まれたリアちゃんから、呼び掛けがあった。ひょっこりと腕の中から顔を出していて、とっても可愛い。いや、今はそれどころじゃなくて。

「処刑人も私と同じで何処に何があるか分からないんじゃない?」
「……あ!」

 確かにそうかもしれない。多分ギルが校舎の中まで入るのは初めてだ。つい食べ物関連だと思ってしまったけど、根本から外していたみたいだ。
 いやでも匂いとかで分かる可能性も。そんな風に考えるけど、結局はいなかったのだ。また出戻りということになる。

「どうしよう……」

 途方に暮れてしまい、リアちゃんに相談した。

「やっぱりしらみつぶしに探すしかないと思う」
「……だよね」

 むしろそれしかない。運良く出くわさないかな。そんな淡い希望を抱きながら走っていると、何やら廊下の雰囲気がざわついていることに気が付く。

「おい、今不審者がいるらしいぞ」
「は? マジで?」
「どんな奴?」
「ちょっと見に行ってみない?」
「誰かのお兄ちゃんとかじゃないの?」


 やばい。多分ギルに間違いない。もう見付かっているみたいで、既に大きな波乱を呼んでいた。

「その人何処にいたの?」

 ネクタイの色の違いから、一個学年が下であると分かる生徒に尋ねる。不審者の話をしていたとはいえ、突然私に尋ねられてしまい多少戸惑っているようだ。

「え、あ……今は二年の教室あたりにいるそうです」
「あ、ありがと」

 ちゃんと答えてくれた男子に、お礼を言って駆け抜ける。正直内心がっくしときていた。二年の教室、つまりは私の教室あたりということになる。まさに灯台もと暗しというやつだ。

 自分の教室に急いで戻ってきてみると、廊下で何やら人集(ひとだか)りが出来ていた。どうやら完全に私の教室の真ん前のようだ。しかし人の壁でまだギルが確認出来ていない。掻き分けて行くと、ようやくギルを確認出来た。

「もう一回だけ言ってやる。邪魔だからそこ退けろ」
「だから、退くわけにはいかないって言ってるんだ。何処の誰だか分からんのを放置出来ないからな」
「えぇ?」

 ギルを見付けたと同時に驚くべきは、庵藤がギルと対峙していたことだ。本来会うことがなかっただろう二人だけに、途轍もない違和感がある。一体どういう状況なの?

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あきゅろす。
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