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黒を司る処刑人
1:波乱X
「学校だぁ?」
 
 ギルが訝しげに問う。こんな何もないような場所が、好奇心に駆られるようなものかと疑問に感じたのだ。

「ええ、学校デスヨ。確かに戦いなんてものとは無縁の場所デスけど、だからこそ、それ以外はかなり刺激的デス」
「へぇ? だがお前は学校がどんなとこか知ってるだろ。今更何に好奇心が持てるっていうんだ」

 ギルやリリアと違い、スカルヘッドは元人間だ。年齢を言えば成人を越えているスカルヘッドは、学校というものを経験している。なら今更じゃないのか。学校を知らず、興味も薄いギルらしい反応である。

「カカカカカ。いやいや、学校はどれだけ通っても良いもんデスヨ。友達、給食、遠足、体育祭、部活、何より恋愛と、まさに青春の宝庫デス」

 両手を広げ、スカルヘッドは得意げに語る。

「……青春って何?」

 だがいまいち伝っていない。リリアが即座に質問をしてしまう程だ。それにより、スカルヘッドのノリが滑っているように映る。ちょうど、ヒュウウゥと風が吹きそうであった。

「青春とは何か? ムム、難しい質問デスネ。あえて言うなら……未熟であるが故にうまくいかないながらも、それを楽しめることデスか」
「何だそりゃ」
「よく分からない」

 挫けずにスカルヘッドなりに定義づけたものの、全く伝わっていないようだ。二人からバッサリと切り捨てられてしまう。言葉にはし辛いと分かってはいるのだが、まさかこうも伝わらないのは歯痒いことである。

「……む、ムゥ」

 スカルヘッドは参って唸ってしまう。

「じゃあ、紗希さんが学校で何をしているのか、気になりませんカ?」

 ならばと、スカルヘッドは視点を変えてみせた。難しいことは言いっこなしだ。実に単純に、ギルとリリアの好奇心を擽(くすぐ)れば良い。だがギルから返ってきたのは、随分素っ気ないものだ。

「いや別に」
「な、何と……。紗希さんがどういう格好で、どういう状況で、どういうことをしているか気にならないと?」
「何か言い方が変態っぽいんだけど」

 紗希を対象にしたためだろう。リリアはギラリとスカルヘッドを睨んだ。僅かに風の流れが変わり、スカルヘッドの周りに渦巻いているのが分かる。

「そ、そんなことは……。なら言い方を変えましょウ。紗希さんが学校でどんな風に過ごしているのカ。どうデス?」
「どうったって……」

 そう言われても困る。リリアは眉でハの字を作っていた。だが構わずスカルヘッドは続ける。元より狙いはギルにある。

「きっとメチャメチャ楽しい学校生活をエンジョイしてらっしゃいマスヨ。ギルさんは暇してますケド」
「……そいつは聞き捨てならねぇな」

 ようやく反応したギル。本来真面目とは程遠い性格だ。自分が敵の襲来を待つ中、紗希が呑気に楽しんでいることが気に入らないのだろう。
 よく知っていると言える。ギルの心理を上手く掴んだスカルヘッドは、髑髏の仮面の下で笑みを浮かべていた。酷く質が悪い。

「ならどうしマス?」

 答えは分かり切っている。重かった腰を上げるギルに、スカルヘッドはあえて尋ねた。

「ちょっくら見て回ってくる」
「ちょ、ちょっと……」

 制止をかけるのは、珍しく慌てふためくリリアだ。

「そんなの、多分紗希が困る」
「いやいや、大丈夫デスヨ。何せ魔界の住人とはいえ、我々は外見人間と変わらないデスから」
「……え?」

 確かに変わらない。変わらないがただ一つ異質なものがある。三人の中でもただ一つ。スカルヘッドの髑髏の仮面だ。冗談のつもりか、単に気付いていないのか。突っ込みのスキルがリリアにあれば、お前が言うなと叫んでいたところだろう。

「ん? 何かおかしいデスカ?」
「さすがにその髑髏は……」

 代わりに、リリアは呆れ果てた表情を作る。

「…………あっ!」
「今気付いたの!?」
「し、しまった。白衣を着てるから保健の先生と誤魔化すつもりが……。いやでも顔さえ隠せばいけルのデハ?」

 一人くるくると動き回る様子は、どうやら両手で覆う、または背を向けるで誤魔化すつもりのようだ。もはや真面目に隠蔽する気がないとしか思えないスカルヘッドだが、彼としては大真面目である。

「いやそんなんじゃ無理だし」

 冷たく否定するリリア。

「なっ……! い、いや、それでも私は行きまス。きっとこの学校はブルマ着用であると信じて!」

 何とも不純な動機を叫んだ後、スカルヘッドはピョイと屋上から飛んだ。

「あ、この…」

 リリアはそれを見逃さない。よく分からないが、紗希に迷惑が掛かるだろうと判断してのことだ。即座に、空中にいるスカルヘッドにカマイタチを撃ち込んだ。

「ギャアァ!」

 短い悲鳴は勿論スカルヘッドのものだ。幸い致命傷は避けたものの、飛び降りるつもりが、再び屋上にて叩き付けられる。

「グほっ、……酷い」
「紗希を困らせるなら私が許さない」
「でもギルさんはもういませんデスケドネ」
「あっ……!」

 見ればギルの姿はもうなかった。いつの間に。勿論スカルヘッドに気を取られていた間にだが、その抜け目のなさは相当なものだ。

「では私めも……」
「待って」

 ギルに習い、抜け出そうとするスカルヘッドだが上手くいかない。突き刺さる言葉と、殺気立つ視線には、さすがにスカルヘッドもヒヤリとした。

「あの……」
「取り敢えず医者は動けなくして、そっから見つけないと」
「ちょ、まっ………アッ―」

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