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黒を司る処刑人
【プロローグ】
 暑い夏が到来していた。じわじわと、焼けるような日の光は強烈である。だが、それは昼間の話であった。今は暗く、日の光がない。 

 吹き抜ける風も何処か冷たく、涼しさを肌で感じることが出来る。夜とはいえ、ここ最近では珍しい快適な空気だった。

「ようやく涼しいわね」
「昼間は本当に暑かったですよね」

 そんな会話が交わされる。残業から帰宅するOLだった。随分遅くなった夕食を済ませようと、近くにあるコンビニへ向かうところだ。

 ネオンサインに彩られた街並み。人通りもそれなりにある時間帯で、二人が並んで歩いていると、内巻きにしたショートヘアの後輩がふと疑問に思った。

「あれ?」

 立ち止まっていた後輩に気付き、茶髪のセミロングの先輩は、少し歩いたところで振り返った。いったいどうしたのだろうと尋ねてみたのだ。

「どしたの?」
「いやあの……」

 後輩は掬うように片手を広げた。視線はその手の中心に注がれ、信じられないとすぐに言葉は紡がれなかった。

「先輩……今は、夏ですよね?」
「うん? 夏でしょ? 今日は涼しいけど、これでも暑いじゃない?」

 いったい何を言い出すのか。さっきまで暑い日が続くと言っていたとこだし、日本に寒い夏があるわけがない。

「それじゃあ、これって?」
「これ?」

 後輩が見せてきたのは自身の手のひらだった。その中には、白い、溶けかけの結晶があった。

「これって……」

 答えは分かる。考えるまでもない。だが妙だった。普通、これは有り得ない。

「そんなまさか……」

 だが、否定しようとした言葉をさらに否定するように、二人の視界に白い結晶が舞い落ちる。
 二人だけではなかった。黒く、吸い込まれそうな空から、白い雪が降ってきたと、誰もが気付き始めた。

「え? 雪?」
「何で今の時期に?」
「ママ、雪だよ」
「うそ……」

 ちらちらと舞い落ちる白い雪は、街の人間を困惑させた。冬になれば確かに積もるこの街に、季節外れの雪が振り落ちた。

「……この街に」

 そんな中、一人の女が呟いていた。女は妖艶という言葉がよく似合っている。ペロリと舌なめずりをした女。まさに彼女は、獲物を探す捕食者であった。人間ではない。まだ人気(ひとけ)もあるというのに、堂々と街を闊歩する。

 近く、またもやこの街で何かが起ころうとしていた。

 一方、既に街に滞在する者たちは気付き始めていた。暑い夏に降る雪という怪奇。さらには、災いをもたらすであろう足音に。

 その足音は、暗く、溶け込むようにひっそりと存在していた。上手く隠れてはいたが分かる者には分かる。その特有の忍び寄る黒い影は、同種には酷く臭う。



 白く美しい雪が揺れた。

 ちらちらと。

 ちらちらと。


 街を覆い尽くすように。

 いつまでも降り続けた。

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あきゅろす。
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