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黒を司る処刑人
1:不安U
「エルゴール以来、戦いらしい戦いはしてないみたいデスね」
「……詮索はいいんだよ。何しに来た?」
「世間話デスよ。まぁ単刀直入に言いましょうカ」

 スカルヘッドは柵に上半身の重心を預ける。今妙なことをする気はないという気概か、ギルにも所作が見える位置に移動した。もちろん手にもメスはない。

「この地に来て、何回使いましタ?」
「……覚えてねぇよ」

 何を、とは言わなかった。また何を、とは訊かなかった。互いに何を指しているかは明白であった。

 ―黒い炎。

 こちらの世界にはない。絶対的な破壊力を持つ、ギルの切り札である。

 だが、リスクも当然ある。

「……正確な数までは分かりまセンが、最近酷使しているだろうことは分かりますヨ」
「お前に言われなくても分かってんだよ。自分のことだからな」
「そうデスか。では、それを承知であえて言いますが、これ以上は危険デスよ」
「……」

 ギルは至って冷静だ。黒い炎を使えば使うほど、より大きな爆弾を抱えるだろうことは、既に分かっていた。それが、今更言われたところで反応に変化はない。

「今はまだ大丈夫でしょうが、いずれその炎に、貴方自身が喰われることになりマス」
「はっ、俺の心配するくらいなら、てめぇの爆弾の心配でもしてろ」
「……。私のほうは大丈夫デス。余裕もまだありマスし。けれど貴方には余裕がまるっきりナイ。これからも使わざるを得ないでしょう。紗希さんを狙った魔界の住人だけでなく、あの執行者も油断なりませんからネ」

 アッシュのことを指すスカルヘッド。その執行者に対する警戒心には、私情も絡んでいるように思えたギルだが、指摘することはなかった。

「用はそれだけか?」

 代わりに邪険にするギル。だがスカルヘッドも引くことはなかった。

「私には分かりませんネ。貴方が一人の人間に拘っている理由が……」

 何も紗希を見捨てろというわけじゃない。スカルヘッドも、ギルが紗希のそばにいることには賛成だった。元人間であるスカルヘッドにとって、紗希が殺されるのは忍びない。ただ純粋に気になった。ギルにどういう心境の変化があったのか。それが訊きたかった。

「別に。狙ってくる奴らを返り討ちしたほうが手っ取り早いだけだ」

 ギルは淀みなく答える。迷うはずがない。それしかないのだから。それ以外に何があるというのか。
 だが、スカルヘッドが感じたことは全く別のものだ。淀みなく、迷うことなくスッと答えを出したギルに、違和感は残ったままだ。それは本当なのか。それはまるで……。

「言い方が悪かったみたいデス。何故彼女なんデスか? 他にも魔界の住人と遭遇しつつも、たまたま生き永らえた人もいたのではないのデスか?」
「さぁな。たまたま紗希のときに思いついただけだろ」

 ギルは他人事のように返した。淀みがない返答だったのは先程と変わらない。スカルヘッドは「そうデスか」とだけ言って去った。納得出来たとは言えなかっただろう。
 とはいえ、スカルヘッド自身が過去を詮索されたくないように、ギルにだけ追求するのは無粋だと感じたからかもしれない。
 だが間違いなく、スカルヘッドには違和感が残っていた。

「狙ってくる奴らを返り討ちしたほうが手っ取り早いだけだ」

 その淀みのない返答はまるで……。

「自分にも言い聞かせているんじゃないデスか?」

 スカルヘッドが去ったあとも、ギルは変わらずそこに留まっていた。

「で? お前も何か用か?」

 そう呟くと、金髪を揺らすリリアが現れた。

「盗み聞きか?」
「何のこと? 今来たとこなんだけど」

 ギルにはそれが本当か否か判断が付かない。

「あの医者、まだいたんだ」

 ギルは何も返さない。独り言だとみなした。

「頼みがあるの」
「……は?」

 柵を乗り越え、ギルの横にトンッと着地したリリアが、膝を曲げてそんなことを言う。あまりにも意外なリリアの申し出にギルはつい聞き返していた。

「だから、頼みがある」
「……一応聞いてやる」

 いったい何のつもりか興味はあった。その内容はやはり、ギルの予想を裏切っていた。


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あきゅろす。
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