黒を司る処刑人 3:侵入U 外からも分かるが、中は電気が全くと言っていいほど点いておらず、真っ暗だ。歩くだけで少し困難に感じる。なのに、前を歩くスカルヘッドとギルは構わず進む。小走りになりながらついていくだけで精一杯だ。こんなところではぐれたくなかった。 「あちらにナースたちがいますんで、避けてこっちを通りマス」 真っ直ぐの通路を進むと左のところにぼんやりと明かりが見える。正面入り口に繋がっているんだろう。そして、何を言ってるかは分からないが、話し声が少し聞こえた。スカルヘッドの言う通り、別の道を行くのが定石だ。真っ直ぐには行かず、左の通路に逸れて行く。 「そろそろ点けますか」 そう言ってスカルヘッドは明かりを灯した。スカルヘッドの周りだけが明るくなる。何てことはない。懐中電灯を手にしただけだ。なんというか用意がいい。 「で?何処にいるのか知ってるのか?」 「え?」 ギルの質問に、先を歩くスカルヘッドが振り向いて確認した。 「三日以上待ってたんだろ?当然敵は把握してんだろうな?」 「…それは…」 と、言い淀む。そして何事もなかったようにまた、前を向いて歩き始めた。ギルは当然引き留める。肩ではなく、頭をガシッと掴んだわけだが。 「おいこら。まさか何にも分からないのか」 「いや〜。そんなまさか…。そこは、そこの紗希さんが知ってるかと」 「えぇ?」 そこで私に振りますか。そんなの私にだって分かるわけがない。だけどギルはそんなことは気にしていない。 「つまりお前は知らないんだな」 「…ひゅーひゅー」 どうやら口笛を吹いて誤魔化しているようだ。いや全然吹けてなくて、自分で言ってるだけなんだけど。 「それで誤魔化してるつもりか。あぁ?」 「ふぎゃあ!」 「ギル。さすがにそれで怒るのは酷いでしょ」 少し可哀想になってきたので止めに入った。ギルはパッと掴んでいた手をあっさり離す。 「何で止めんだ」 何でと言われれば、アイアンクローを喰らったことのある身としてついというか、そんな感じである。 「うぅ…紗希さん助かりましたぁ」 「っあ、いえ…」 ヌッと目の前に出てきたから少しビックリした。しかも、態となのかと思えるわけだが、懐中電灯で顔を照らして近付いてきた。この暗いなか、誰であるか分かっても不気味なものだ。さらに言えば髑髏が現れたわけだから、怯んでしまったのは仕方ない。 「使えねぇな。なら探すしかないか」 ギルはがりがりと頭を掻いて面倒だと言いたげであった。 「…!」 その時、コツ、コツと足音が聞こえる。私にもはっきりと聞こえた。スカルヘッドは瞬時にライトを消す。ギルは私のそばまで来て静かにしろと囁く。私はコクとうなづいた。声を出して返事することももう控えた。どうやら足音は私たちが歩いていた方向、つまりは前から来ているようだ。 「ギルさ〜ん」 と、出来るだけ小声で、だが私たちに聞こえる声量でスカルヘッドが呼ぶ。たまたま空いていた部屋からだ。チョイチョイと手招きしていることから、その部屋で様子を見ようということだ。わざわざ廊下で鉢合わせになる必要もない。ギルは私を担いで素早く移動した。 「ちょっ、もう少し持ち方ってもんが…」 荷物か何かを持つように脇に挟まれた。 「静かにしてろ」 「む…」 私の抗議はたった一言で破棄された。静かにしなきゃいけないのは分かるが、少し納得出来ない。そんなことを考えているうちに、足音は大きくなっていた。 そして一筋の光が見える。どうやら向こうも懐中電灯を持っているみたいだ。 「…ちょ、ギルさん、重いんですけど」 「…!?」 何と私を担いだままのギルは、スカルヘッドの上に乗っていた。乗られたスカルヘッドはうつ伏せに潰れている。 「我慢しろ」 そしてギルは気にすることなく、光の見えるほうを注視している。 「……ヒドイっ」 「来たぞ」 当然まだ何か言いたげだったスカルヘッドだが、ギルのその一言で押し黙る。倣って私も静かに息を潜めた。一筋に過ぎなかった光は広がり辺りを照らしていた。 「…うぅ、真っ暗すぎる。早く帰りたいなぁ」 すぐ側を通っていたのは、普通の看護士さんだった。ぶるぶると腰を引かせて見回りをしていたらしい。見えなくなった頃を見計らい、私たちは再び外に出る。 「本当にこれで探す気か?」 「え?」 「人間相手にまでコソコソしなきゃなんねぇのかってことだ」 「それは仕方ないんじゃ…?」 「無理だ。やっぱ全員先に運よく気絶にでも持っていくしか」 「ダメダメ。ダメだってば」 なおもまだ実行しようとするギルの腕を私は必死に引く。 「べ、別にそんなことしなくてもギルなら余裕でしょ」 「…たりめ〜だ」 そのまま引きづられて行きそうになりながらも何とか留めた。 [前へ][次へ] [戻る] |