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黒を司る処刑人
2:探索U
 優子の病室を後にして、私は昨日の場所にさっそく向かった。迷った末、魔界の医者と会った場所だ。

「え?」

 でも何かが違った。その場所に向かっているはずだ。段々とその違和感は膨らんでいき、そして確かなものと変わった。

「……何……?……これ?」

 最初は何かの汚れだと思った。赤いものだ。それはよく見ると、人の手に似ている気がした。滲みもあって少し潰れてしまっている。だから私は、そんなことはないと、自分に言い聞かせた。偶然そう見えるだけかもしれない。

 最初は一つ。その先に三つほど。段々と汚れの数が、増えていた。そして昨日と同じ角に差し掛かる。

「……っ……!?」

 曲がって見てみれば、“それ”は上下左右に広がっていた。もう言い聞かせることなんて出来ない。はっきりと、赤い人の手型が覆い尽している。

「あ、君何で此処に」
「あ……」

 そのあまりに異常な光景に私が息を呑んでいると、声が掛けられたことに気付く。どうやら警察の人みたいだ。よく見れば、警察だと思われる人たちが複数で、刑事ドラマで見たように現場検証をしているようだ。

「おいおい誰だ。一般人は入れんなっつってただろうが」
「すいません。庵藤刑部」

 一人の警察官が上司らしき人に頭(こうべ)を垂れて謝っている。庵藤……?
 そう言えば、前にお父さんが警察だって庵藤が言ってたっけ。この人がそうなのかな。名前だけだと分からないけど。
 無精髭を生やしていて、刈り上げた髪型である。長身であることも特徴的だ。灰色のコートを羽織っているあたり、推理小説なんかに出てきそうにも思える。

「あ、あの……此処で何が」
「ほら下がって。此処にはもう来たら駄目だ」

 有無を言わさず、私は追い出されてしまう。見張りのように警官が立ってしまってはもう行けない。
 とはいえ、あっさり引き返すわけにはいかなかった。昨日に此処で会った医者と関係があるのかもしれない。今は兎に角情報が欲しかった。

「だめだめ。教えるわけにはいかないんだ」

 警備をさらに厳重にして、私を見張る。これ以上は無理そうだ。仕方なしと此処は諦めることにするしかない。他にも何か得る物はないかと思って病院内を歩き回る。けどこれ以上何も得るものはなさそうだ。
 優子も無事なようだったし、今からでも学校に行こうかと考える。不思議なことに前と違って迷うことなく、道を選択出来る。連日同じところを通れば当然かなもしれない。
 すぐに人の往来が目に映る。点滴しながら歩くおじいちゃん。てきぱきと歩き回る看護婦さん。風邪を引いたのか、中学生くらいの子もいた。ちょうど、私とすれ違うように、小走りで対向してくる看護婦さんが見える。 その人は源川さんとはまた違う印象だった。源川さんは後ろで髪の毛をくくっているが、この人はサラっと長い髪を自由にさせていた。多分初めて見掛けたと思う。そう思えたのも、印象が違うように感じたのも、マスクをしていたからかもしれない。だから、私は最初聞き取れなかった。

「……いで」
「……!?」

 私は振り向いた。もうその時、彼女はスタッフ専用の部屋に入ろうとしていたため、確認は出来ない。何か言いました?とも訊けない。気のせいにも思える。それほど小さな呟きだ。その上マスクをしていた。でも、もし私の聞き間違いでないなら、彼女は言った。

「……もうここには来ないで」と。



 急いで家に戻り支度して向かったわけたけど、遅刻は逃れるわけもなかった。おかげで今日も反省文である。憂鬱だ。宣告してきたのは先生……じゃなくて庵藤だった。

「一応理由訊いとこうか?」
「……ぅ、ね、寝坊だけど」

 ちょうど三限終わりの休み時間に来たのだけど、委員の仕事として庵藤が事務的に尋ねてきた。仕事の詳しい内容は知らないけど、記載しないといけないらしく、ノートを手に持っている。寝坊だと言ったのは、一番それ以上深くは聞かれないだろうと思ったからだ。

「嘘つけ」

 なのにそんな策略もあっさりと破り、庵藤は追及してきた。

「な、何でよ?」
「少し視線が泳いだ。答えるのにいつもより間があった。嘘だと言ったら少し動揺しただろ?」

 完璧なまでに合っているから困る。嘘を言う意味も大したことはない。だけど、そのまま認めるのは何だか負けたようで悔しい。

「そ、そんなこと言われても寝坊なのは寝坊なんだし」
「理由が寝坊だと反省文の字数が割り増しっつってもか?」
「むぐっ……」

 それは卑怯だ。字数は限りなく減らしたい。勝ち誇ったように笑う庵藤は気にくわなかったが諦めた。

「はぁもう……病院に行ってたから」
「ん、そうか。ちゃんと最初から言えばいい……ってお前、何処の病院だ?」
「何処って……」

 急に余裕じみた冷静さが庵藤から消える。その急な変貌振りに私は圧倒され、つい喋ってしまう。

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あきゅろす。
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