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黒を司る処刑人
1:御見舞い御一行様W
「何で、こんなところに……」

 質問されたと同時に、私が声を上げてしまいそうになると、押し込まれるように口を手で塞がれる。ギルもいない。リアちゃんもいない。私は一人だ。助けてくれる人は誰もいない。恐怖で足が麻痺する。力が入らなくなる。そのうち私はぺたりと座り込んでしまった。

「何で……こんなところに来たのデスか?」

 髑髏の医者は同じ質問を繰り返す。座り込んだ私の眼前には髑髏の仮面が迫る。逃げることを許さないだろう。目の前の魔界の住人は、眼を反らすことも許してくれなかった。

「あ、口を塞いでたら喋れないデスよね」

 そう言って細い手を離す。

「ぁ……ちょっ、と……迷って……」

 やっと振り絞って出した声は、本当に弱く震えていた。でも、そんな言葉も聞き取っていたようで、髑髏の医者は反応を返す。

「あ〜、迷ってしまいましたカ。デモ残念。今はチョット忙しいのでネ……お引き取り願いマス」

 そして肩に手をポンッと置かれた。ビクッと目を瞑る。

「あちらに向かっていただ行ければすぐに分かると思いますヨ」

 囁くように道を示す。肩に置かれた手がその方向を指していたことに気が付いたのは、遅れて眼を開いてからだ。
 彼は立ち上がり、背を向けてまた何か用事があるのかこの場を去ろうとしていた。そして、ふと思い付いたようにまた振り向く。

「あ、そうそう。もちろん此処で会ったことは、内密にお願いシます。もし守ってもらえないなら、……言わなくてもわかっているみたいですネ」

 それだけ脅しておくと、もう私に興味がなくなったのか、振り向く様子もない。そのまま何処かへと歩いて去ってしまった。
 私もゆっくり立ち上がり、何とか走ってその場を去った。


「あ、やっと戻ってきた」

 不思議なことに、示された道を進むと、自ずと現在地が把握出来た。あとはもう、マニュアルの通りに従うだけだ。すぐに優子の部屋に戻って来れた。

「あれ? ジュース買いに行ったんじゃなかったの?」「紗希……?」

 そのまま急いで部屋に入った私は、平静を装うことを忘れていた。それほど、私には余裕がなかった。いや、そんなものあるわけがない。

「あ、うん……ちょっと財布を忘れてて」
「じゃあもう一回行ってくるの?」
「いやもう……いいかな」

 皆はそれ以上何か気付く様子はなかった。私は何とか、遅れながらも取り繕おうと努めた。戻ってからも少し話したあと、私達は病院を後にすることになった。

「紗希。また明日ね」
「うん。バイバイ」

 最後に加奈と別れて私は一人になる。私の足はすぐさま駆け出した。向かう先に別に変更はない。私の家だ。ただ急いで帰りたかった。ギルかリアちゃんに出来るだけ早く相談したかった。今までと同じだ。悪い方にしか考えられない。明るいうちから、あの魔界の住人は何をしていたんだろう。もしかしたら、あの病院で何かするつもりかもしれない。優子を入院させたままにするのは躊躇われたが、私じゃ何にも出来ないのはもう痛いほど分かり切っている。何か起こる前に、ギルやリアちゃんに話すのが先決だと思う。

「ただいま」

 前に早くに両親が帰ってきたこともある。それだけ確認出来ると、私は呼び掛けながら二階に上がった。

「ギル、リアちゃん、いる?」

 私の部屋にいたのはギルのみだった。ちょうど入ってきた私に背を向ける形で寝転んでいた。

「いるならちゃんと返事してよ」
「ん……? あぁ……」

 ギルは袋菓子を食べながら、漫画を読んでいた。随分と人間くさい。メリーのときは瀕死といえる状態だったものの、病院にも現れた医者によって治癒されてから魔法のようにすぐ治っていた。リアちゃんもあれからそんなに経っているとは言えないけど、もう腕の骨はくっついて完治間近らしい。凄いとしか言いようがない。

「紗希、これあんまうまくねぇな」

 と、今食べているスナック菓子を見せる。不味いと思うなら勝手に食べないでほしい。おかげで貯蓄の減りが激しく、いい加減太るかもしれないわよ。とお母さんから心配されている。
 見張っている目的なんだろうけど、度々遊び感覚のように来訪するギルは、最近こんな感じだ。私を狙って来る魔界の住人が少なくなったことがさらにそう思わせる。リアちゃんも言っていたことだが、前にバマシャフという名の奇術師を倒したことが因果しているらしい。あの奇術師も、それほど強く名が通っていたみたいだ。ただ、それも一時的に過ぎないというのも、ギルとリアちゃんの一致した意見だった。

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あきゅろす。
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