とばっちり
放課後、冴木敬大を廊下で捕まえた凌は、うむを言わせず彼を体育館裏に引っ張り込んだ。
「用って何ですか凌さん?」
案の定そこはシンとしていて辺りに人気はなかった。
まぁ当たり前だ。人でごった返す体育館裏というものがあればみてみたい。
警戒心剥き出しの敬大のことはお構いなしに、凌は話を切り出した。
「今日お前のクラスに転校生が来ただろう。あの転校生のこと覚えてるか?」
またセレナのことで文句があるのかという予想から随分外れた質問に、敬大は目を瞬いた。
「葵さん? 覚えてるもなにも、俺は初対面のはずですけど」
「よく思い出せ、俺の家で何度か顔も合わせてるはずだ」
「え…俺、凌さんの家に行ったことなんてありましたっけ…。って、もしかして前世関係者ですか!?」
大きく身を乗り出す敬大の問いかけは、どうやら当たっていたらしく、凌は忌々しげに舌打ちをした。
「ユリウス=テオニアス。くそ、よりによってなんであいつが…」
「ええと、どんな人でしたっけ?」
「俺にしつこく付きまとっていた男だ」
「そういう人いっぱいいすぎて分からないんですが…」
スミルナに付きまとっていた男と聞くと頭の中には、覚えているだけでもそうとうな数の顔が浮かぶ。
どれだ?と首を捻る敬大だったが、
「いただろう、いつもいつもへらへらしていて、とくに求婚してくるわけでもないくせに暇さえあれば顔を出していた男が」
「あぁ、あの。来る度にスミルナさんに追い返されてた優しそうな人!」
浮かんだ像にポンと手を打つ。
そういえばそんな好青年風の人がいた。
しかし凌はさらに苦々しい顔をする。
「こっぴどく追い返しても、次の日にはけろっとした顔で現れてやがったからな」
「そうそう。俺もしょっちゅう追い返されてただけにとても他人事とは思えなかったんですよね。じゃあ、ひょっとすると葵さんも記憶を?」
「前世で男だったていう記憶があって、あそこまでおしとやか〜に育つか?」
「さ、さあ。それはなんとも」
スミルナさんはそのままでしたしね、とも言えない。
「俺を見たときのあの反応を見る限りその線は薄そうだ。頭の良いやつだったから、あの場で態度に出したらまずいと思っただけかもしれないけどな。でもあの顔は…、たぶん覚えてないだろうな」
「そうですか…。でも彼、いつもにこにこしてて人当たりのいい人でしたよね。他の人と違ってただスミルナさんに会いに来てるって感じだったから俺、てっきり友人なのかと」
確かにスミルナはその人にきつく当たっていたが、それもシリクスの目には気心の知れた者同士のじゃれあいのように映っていた。
懐かしむように微笑む敬大の台詞を聞き、凌は有り得ないとばかりに盛大に顔を顰めるが、そんな彼の様子に気づかずに、敬大は満面の笑みで言い放つ。
「現世でも会えるなんて、なんだかんだ言っても絆は強かったってことですね」
「…そ、」
「そ?」
「そんなことがあってたまるかああ!!」
「ええ!?な、なんでそんなに…」
「前世で散々付きまとわれてたっつってんだろうが!絆なんぞ欠片もないわ!」
胸倉を掴み上げられて前後に揺さぶられながら、敬大はこめかみに青筋を浮かべ烈火のごとく怒りだした凌を見上げた。
自分は、いったいいつの間にこんな地雷地帯に足を踏み入れたのだろう。
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