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「へぇー、こいつが?なんか地味だな」
部室に通されるなり真っ先に近付いてきた男子は、マジマジあたしの顔を覗き込んで、なんとも率直で失礼な意見を述べた。
何こいつ。ムッとしてあたしとそんなに背丈の変わらないように見えるそいつを睨み返す。
地味ってのは自分でも分かってるけど、こう面と向かって言われると若干この野郎とは思う。あたしだって好きでぱっとしない訳じゃないのに。
顔を合わせて三秒でこの男子は嫌なヤツのカテゴリーに仲間入りを果たした。いままでのタイムを大幅に塗り替える最端記録だ。ちなみに切原も同じ所に振り分けされていたりするが、
…それにしても赤い。髪が赤い。
部室に入った時から、あたしの意識は完全にその男の真っ赤な頭に持っていかれていた。
かくれんぼしても真っ先に見つかりそうだ。迷子になった時は便利かもしれないけど。
そんな彼の頭は丸っこいあたりがちょっとリンゴを連想させる。
あれ…デジャヴ?なんか前にも同じようなこと考えたような…?
「ちょっと、余計なこと言わないでください。気にしてたらどうするんスか」
「だって本当のことだろぃ?お前も何でもっといいの選ばなかったんだよ」
こいつら…。
こそこそ話しているわりには丸聞こえな会話に、ひくりと顔面の筋肉が引きつった。
「こういうときはな、相手が一目見た瞬間に負けたと思うような美人捕まえてくんだよ」
「そりゃあ、赤也にはちとハードルが高すぎるぜよ」
「それどういう意味っスか仁王先輩!」
「まんまの意味に決まってんだろぃ」
「………っ…」
よってたかって好き勝手言ってくれるじゃないかテニス部どもよ。
半眼で睨みつけるあたしを気にも留めずに、三人は周りを囲んでぎゃあぎゃあと騒ぎたてている。
「まぁなんにせよインパクトは大事やしのう」
「あぁ、そういう事なら理想的かもな!」
「インパクト…あります?」
「お前さっきの叫び声聞いてなかったのかよ。ま、一番はそん時の顔だけどな」
ふっ…おいおい、だんだんここにいるのが馬鹿らしくなってきたぞ。
遠い目をして笑い声を聞き流す。お腹空いたな…今日の夕飯何だろ…。今ならちょっと何か悟れそうだ…夕飯のメニューぐらい当てられるんじゃないかこれ。
ていうか、何であたしこんなとこまできて馬鹿にされてるんだろう。
もう帰ろうと本気で考えたその時、
「なんてことを言うんですかあなた達」
奥から凛とした声が聞こえた。
「おいブン太、ちょっと言いすぎじゃないか?」
「もう少し言葉を選びたまえ。仮にも相手は女性なのですから」
目の前の三人にばかり目がいって全然気付かなかったが、奥にまだ二人いたらしい。
この台詞は間違いなく救世主…!なんかちらっと引っかかること言われた気もするけど。
光の戻った目で、あたしは手前にいるムカつくやつらの間から奥を窺うと同時に、大きく目を瞠った。
視界に入った色黒の坊主頭にはもちろん驚いたが、それ以上に驚いたのはもう一人の人物を目にした時、
「柳生!?」
「おや、あなたは。栗原さんではありませんか」
思わずリンゴ頭を押しのけて叫んだあたしに、柳生は紳士然とした笑みを向けた。
「どなたかと思えば、切原君のお相手の女性というのは貴女でしたか。私はてっきりもっと違うタイプの人が…いえ、しかし貴女だとは夢にも思いませんでしたよ」
いつものごとく悠々と話す柳生。何が言いたいのかはいまいち判らないけど、とても同い年だと思えないこの落ち着きっぷりは間違いなくあたしの良く知る柳生だ。
「なんで…柳生がこんなとこに?」
テニス部でもないのに、と続けようとしたところでリンゴ頭が間に割って入った。
「決まってんだろぃ、こいつもテニス部だからだよ」
「あ、そうかー。って、えぇ!?」
柳生もテニス部!?
「そんなに意外ですか?」
ちょっと首を傾げる柳生に、あたしは首を激しく上下に振った。
え、だってテニスって全然イメージじゃなかったんだけど。
「ずっと柳生って文化部なんだと思ってた。やっててゴルフぐらいかなって」
「おお、正解じゃ」
「え、文化部?」
「いや、ゴルフの方」
「もともとゴルフやってたんスもんね、柳生先輩」
うそぉ…まさかあの柳生までテニス部の一員だったなんて。
でも言われてみればそんなに不思議でもないんだよね。柳生ってなんか妙に人気あったし、コアなファンが多いらしいからなんでかなとは思ってたんだけど。
…と、誰かがあたしの袖を引いた。何かと振り返ればなんだか難しい顔をした切原がいて、
「おい、敬語」
とのたまった。
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