FANCY
旧校舎の幽霊
この――透明すぎる声。本当に透明な幽霊がいて、透明な声が聞こえているみたいに。
だけど、その声は確かに私の元に舞い降りて。
――あと2歩。
ドアの窓から見えたその横顔――。
私がこまめに調律するピアノと、その美しく清らかで、透明なメロディの一体感。
歌っているのは――
「ギシッ」
ドアの手前で、大きな――とても大きく感じられただけの――私の足音。
「だれだ?」
透明な美しい声の持ち主――中倉 奏(なかくら そう)は、ピアノの音をピタリと止めた。
反射的に私はドアの下に隠れてしまった。
しかも、開け放たれた扉をはさんで階段の反対側。
彼が錯覚だと思い、再び奏で始めてくれたら帰ることができる。
けれど、現実はそう甘くないらしく、彼の足音は、どんどんとこちらに近づく。
いっそ、彼の前に姿を現してみようか。
そう考えている間に、彼は扉から1歩出てきた。
彼は少し顔をめぐらし、私の姿に気付いた。
「――中倉」
先ほどまでの透明な声でなく、いつもの聞きなれた低めの声。
彼は、彼と同じ私の名を確かに呼び、少し目を丸くした。
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!