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FANCY
旧校舎の幽霊


いつものように、あの場所――音楽室に向かっていた。
大好きな歌を歌いに。
誰もいない放課後の音楽室。
今はもう使われていない、旧校舎の音楽室。
歩くたびにギシギシと鳴く廊下を、鼻歌程度の声で歌って歩く。
歩くたびに――当たり前だけど――音楽室に近づく。

「―――……」

音楽室のある2階、階段の角を曲がったとき、それは聞こえてきた。
綺麗なメロディ。透明な声。
ピアノの音と美しくマッチして。
まるで耳元で囁かれているような、
それでいて何か遠い声――。
歌われているのは、偶然なのか私が好きな曲。
いつもここで歌う曲。

――誰だろう。

私は歌うことを止め、その声に聴き入った。

――「旧校舎には幽霊がいるんだって」

クラスの友達が言っていた言葉。
それはきっと私だった。
だって、毎日ここに通って歌を歌っていたのは私だから。
こんなこと初めてだ――。
今までここで歌っている人を、見たことがない。

――本当に、幽霊がいたりして……。

そう思って、でも思い直して自分を嘲笑った。

あと5歩もしないうちに着いてしまう。
鳴り止まないギシギシという『声』。
それは雑音でしかない。というか、今の私にはそんな雑音は聞こえない。


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