VIOLENCE LOVE
『わからない気持ち』
トムさんにつれられて店の外に出る。それから、二人で店の影に隠れた。
こういう時はたいてい―…
「静雄、お前…最近おかしいぞ。特にあの子に対して」
ほら、説教だ。
「…何がっすか?」
「おいおい、本当は気づいているだろうが」
トムさんがため息をつきながら、肩を落とす。
…やっぱりこの人は凄い
人の微妙な変化に気づき、そこを刺激しない程度に…不快にさせない程度に突いてくる。
だからきっと俺もキレることがないのだろう。
「…最初に会った時は」
「……ん?」
最初に会った時はゆかりじゃなかったら死んでいたと思う。
いや、確実に死んでいた。
確実に俺は人殺しになっていた。
…それが、死ぬどころか、俺の力に対抗して来やがった。
なんか…なんて言やーわかんねえけど…俺はすっごい嬉しかったんだと思う。アイツは俺より少し弱いが…力をぶつけて死なない女なんて会ったことなかった。
なんつーか安心もしてたし、張り合える奴が現れたことが本当に嬉しかった。こいつは俺のせいであの時みたいなことにはならないと思った。
だから、この思いが嘘じゃないか確かめるためにわざと強くど突いたり、手を握ったりしたりもした。
嬉しかったからその思いを確かめたくて……でも心のどこかで無くしたくないとも思っていたんだと思う。
「だから、黙って仕事に誘ったと…『忘れてた』は嘘か」
「……うす」
トムさんの目から逃げるように目線をそらす。
「…お前が揺れるなんて珍しいな」
「揺れる?」
「…何でもねえよ」
トムさん「自分の気持ちの正体には気づいていない…か。天然は大変だねえ」と言いながら店内に戻るように促した。
その顔はなんだか楽しそうで嬉しそうだ。
「とりあえず、今日は新羅のとこ行けな」
「……うす」
トムさんの後ろをついて行く。
店内に入り、サイモンがゆかりに絡んでいるところを見つけてキレるまであと数秒―…
トムさんが逃げるまであと数秒―…
ゆかりを誤って殴ってしまうまであと数十秒―…
ゆかりがキレるまであと数十秒―…
店主につまみ出されるまであと数分―…
ゆかりと二人で行動するまであと数分弱―…
ゆかりと付き合うまであと―………
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