VIOLENCE LOVE 『平和島静雄』 買い物を終えてから外に出る。 静雄はタバコを、私はお湯を入れたラーメンを片手に目の前の公園のブランコに腰かけた。 今日、メモにぐしゃぐしゃと八つ当たりをした場所だ。 そうおもいながら、静雄を見る。 「どうした?」 視線に気づいた静雄が首を傾げた。 「静雄さんって…一体何者なんですか?」 池袋に来てからいつでも心にあった疑問を再度ぶつける。 「さぁな。“自販機を持ち上げて標識を引っこ抜き、堂々と喧嘩をする池袋最強の自動喧嘩人形”…とか雑誌に載ってたっけ…」 そういいながらタバコに火を付ける。よく見るパッケージのタバコだ。 ゆっくりと白い息を吐きながら、彼は笑った。 「ははっ、それならお前も池袋最強になっちまうな。“自販機を持ち上げて平和島静雄に対抗した少女”…か。俺としてはなかなか悪くない」 「私としては悪いです」 「ふーん」 静雄はさも関係無さそうに言った。 「一応、あんたのせいで“池袋最強コンビ”とか言われているんですからね」 ちょっと怒った調子で言うと、平和島静雄はまだ笑っていた。 「それはいいじゃねえか。俺だって張り合える奴を新しく見つけたんだから」 「いや、だから……はぁ」 自分だけが楽しいっていうのがわかってないらしい。私はこんなに迷惑しているのに。 「でも、しょーがないじゃねえか。あの時は、ノミ蟲も池袋にいたんだからよ」 「……ノミ蟲?」 聞き慣れない単語に首を傾げてしまう。 「あー…思い出したらイラついてきた」 「はい?」 今までとは打って変わり、静雄の声が1オクターブ下がりこめかみに血管が浮いている。 「いいか、ノミ蟲には気をつけろ」 「だからノミ蟲って?人?」 「ああ。でも名前を出すのは嫌だからな。それでも会った途端わかるぞ」 「どんな人なの?」 「ムカつく。殺したい。」 静雄は吸い始めたばかりのタバコを噛み潰した。たぶん、フィルター部分は噛み千切られたと思う。 「とにかく、会った瞬間…気持ち悪い。殺したいと思ったらノミ蟲だ」 「……へぇ、会ったらどうしたらいいの?」 「そうだな……とりあえず」 静雄がそこでブランコから飛び降り、ブランコの周りにあった簡易な柵に一発蹴りをいれた。ベコンっと鳴り、柵の一部が破壊され歪な形に変形した。 「仮死状態にするか俺に連絡しろ」 「…わかった」 「絶対に殺すなよ。とどめは俺がさす」 「うん。でも連絡先しらない」 それを言うと、頭をバシバシ叩かれた。 「ケータイ出せ」 「いたっ!いた!わかったから!いたい!」 素直に差し出すと、静雄もケータイを取り出し、向かい合わせる。きっと赤外線送受信をしているのだろう。 数秒後、静雄がぶっきらぼうにケータイを投げ返した。 「平和島静雄でアドレス帳に載ってる」 「…ありがとう、ございます…?」 ここは感謝するところだろうか? 「あぁ!本当にイライラしてきた!今から新宿行って一発殴ってくる!!」 「そ、そうですか…行ってらっしゃい」 そういいながら手を振った。手に持っていたラーメンはきっと伸びているだろう… 静雄が走り出したと思ったらピタッと止まった。 …なんだろう? そう思い、目を瞬かせる。 「…また、明日な。お休み」 くるりと振り向いた彼は恥ずかしそうに目を逸らし、しゃくれていた。 それが本当に人間らしくて…… 「うん、お休みなさい」 また微笑んで返してしまった。 ………あ、 池袋にきて初めて友達ができた気がする。 アドレス交換もしたし…友達…だよね…? ……『人間』かどうかはわからないけど……… 私は無意識に伸びきったラーメンを口に運び、噛み締めながら走って行った彼の背中をいつまでも見つめていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |