オリジナルSS
夏の始まり、祭りの終わりにブルーハワイを(H26.7月)
頭上には提灯が連なって赤い光を放っていて、目の前には焼き鳥だのたこ焼きだのを焼く煙が漂っている。
その中を、ボクは待ち合わせ場所に向かって歩く。人がやたらと多いので、前に進むのがやっとのことだった。
「なんでこんなに人が多いんだよ」
そんな文句を呟きながら目的地、神社の前につく。そこには、すでに待ち合わせをしていた人がいた。
「もう! 君はいつも人を待たせるな?」
そう言いながら頬を膨らましたその人は、藍色の着物をきていつもは縛りもせず流している髪を結い上げていた。
それを可愛いなと思いながら、ボクは言い返す。
「それは先輩がいつも、急に呼び出すからですよ。 前々から言ってくれればですね…… って話聞いてください」
「ほらほら、早くしないと終わっちゃう!」
そう言いながら、先輩はボクの話を聞き流して歩いていく。ボクの手を引っ張って……。
先輩のなかでは、祭りには欠かせないもの1つあるらしくボクを引っ張って一番最初に足を運んだのは赤い看板の夜店の前だった。
「ちゃんとついて行きますから手を引っ張ら……」
そう言い終わる前に、手を離されたので途中で口を噤んで目の前の屋台をみる。
その赤い看板には「りんご飴」と書いてある。
それを一つ注文しながら、先輩はくちを開く。
「君はりんご飴は、アメリカ発祥だと知っていたか?」
「え? ……りんご飴って日本のものじゃないんですか?」
てっきり日本の縁日の定番だから日本のものだと思っていたが、どうやらアメリカ発祥らしい……。
それを聞いていた屋台のおじさんが、ニヤリと笑いながら先輩にいう。
「お? お客さん、通だねぇ 1908年にアメリカで初めて作られたってのが始まりらしいからな」
そう言いながら、先輩にりんご飴を渡している。先輩は、それを受け取るとお礼を良いながら歩き出した。
そして、屋台の列から外れた所まで歩いて2人並んで近くのベンチに腰を下ろす。先輩は、りんご飴をクルクルと回しながらをりんご飴について話始める。
「本来、りんご飴というのは収穫祭で振る舞われるものらしいからな…… 世界各地でりんご飴に似たものがあるらしい」
「そうなんですか…… 初めて知りましたよ。」
先輩は、なんというか得意そうな顔をしてりんご飴を食べている。
それを見ながらボクも買えば良かったなと思っていると、こっちにりんご飴を差し出しながら先輩がいう。
「君も食べるか?」
「いやいや、先輩の食べかけですよねっ それ」
そう言い返すと、先輩は不機嫌な顔になってそっぽを向いてしまった。
「そうか君は、私の食べかけだから食べたくないと言うわけだな…… 物欲しそうな顔をしていたから、譲ってやろうと思ったのに……」
「いやっ そういう訳じゃ無いんですけどねっ」
そうあわてて言うと、先輩はりんご飴をボクに押し付ける。そして、神社のあたりを差しながら言う。
「君は、花火をみる場所取りをしといてくれ。 私は買いたいものがあるので、買ってから行く。 りんご飴は食べてしまうようにな……」
そういい終わると、屋台の列の方に歩いて行ってしまった…… 赤い提灯のあかりで赤く見えたうなじが印象的だった。
「……というか、間接キスって発想がないのかあの人は」
ボクは、仕方なく神社の方に歩き出す。先輩の食べかけたりんご飴を持ったまま食べるかどうか迷いながら……
神社の脇にいい場所があったので、食べ終えたりんご飴の割り箸をもって先輩を待っていた。
すると、彼女連れの友達が通りかかった。
「よう! 祭りには、来ないんじゃなかったか?」
「いやはや、呼び出されてね…… 来ないわけには行かなかったのさ」
と返すと、彼はにこにこと笑顔をつくってボクをみた。そして、やれやれと呟きながら
「なんだ、一人だから冷やかしにきたんだがな…… まぁ、がんばれよ」
それに、片手をあげて返事をする。彼女と一緒に歩いていく彼を見ていると、彼の彼女が笑いながら手を降ってきた。
それを見ながら、先輩もあんな感じなら可愛いのになと考えていると
「待たせたな。 いや、人が多くて難儀だったよ」
そういいながら、先輩がプラスチックのカップを2つもって戻ってきた。かき氷らしい、緑色と青色のものを持っている。
「君はこっちだろう? いつも思うが、君は年寄りなのか?」
そんな失礼なことを良いながら、緑色の方を差し出してきたのでボクは受け取りながら
「失礼なことを言いますね…… 良いじゃないですか、美味しいですよ? 宇治金時」
そう答えて、一口食べる。小豆の甘さと抹茶の味が暑さを和らげる冷たい氷が美味しい。
「そうだ、そろそろ時間だろう?」
先輩がそういうのと、同時に花火が上がり始める。夜空に輝き目に焼き付く大輪の華、身体に伝わる空気の振動……
「綺麗だな」「綺麗ですね」
そう、2人でかき氷を食べながら花火を見上げていた。ボクは、先輩に呼び出されて来て良かったなとふと思っていた。
花火も終わって、2人でかき氷のカップをゴミ箱に捨て神社からの帰り道。先輩が持ってきていたのか手鏡をのぞき込んでいた。
「どうしたんですか? 鏡なんて覗いて?」
と声をかけると、先輩は顔を上げた。そして、舌を出しながらこういった。
「うー ブルーハワイなんて食べるんじゃなかったな…… 舌が青くなってしまった。」
先輩の舌は、見事に真っ青。それを見てボクはふと呟く。
「そーいえば、ブルーハワイってどんな味でしたっけ? ボクも食べればよかったです」
それを聞いた先輩が悪巧みを考えた顔になって言ってきた。
「今から、食べてみるか?」
「いやいや、もう夜店終わっちゃいましたし」
と答えると、ボクは彼女に頬を手で包まれていた。
祭りの終わりは、ブルーハワイの味がした。
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