おもいびと ◇WAY OF LIFE10 あれからまた自分の部屋に引きこもって、ぼんやりと疲れた頭でおれはおれなりに考えた。 先輩とのこと。 自分のこと。 将来のこと。 食事も食べないで考えているとだんだん頭が回らなくなってきて。息が苦しくなって。どうしてこんなに考えなければならないんだろうと思えてくる。 本当は、胸が痛くなるから考えたくない。 ベッドに丸まって一日中考えていたら、母さんにたたき起こされてご飯を食べさせられた。 テーブルについただけで黙っていたら、口に食事を突っ込まれそうになって慌てて自分で箸を持った。 ご飯を無理やり胃袋に詰め込んだら、今度は風呂に入れと命令。 臭い!と、嫌がられた。 食事をして、風呂に入って。 そうしたら不思議と考える力が戻ってきた。 一番初めに、先輩に会わなきゃ……って思った。 会ってちゃんと話さないと……。 先輩は何も悪くないのに、おれのせいで傷つけた。 全くの無関係じゃない間柄で、こんな痕を見せられてはショックだよね。 赤い跡はうっすらと黄色く変色してきて少しずつ目立たなくなってきた。 それは悲しい事でもあるけれど、少しは冷静になって考える事ができるようになった。 傷跡は目立たないけどちゃんと残っている。 海斗は、おれの中に残ってくれたんだ。 海斗は自分で進路を選んだ。 辛くても、自分の足で立つための道を選択した。 夢を諦めることなく。 自分自身を磨く努力を中断する事無く前に進むために。 たくさん悩みながら、最良の方法を考えたんだ。 決断には勇気が要ったと思う。 色々な事を全て呑み込んで、海斗は未来のために生きる努力を諦めなかった。 今だって、一緒に暮らすことなんて簡単だと思う。ふたりしてバイトして生活すればそれなりにやっていける。 たったひとつの「一緒にいたい」という願いを叶えるために、他の全ての可能性を捨ててしまえる覚悟があるのなら……。 でも、それは本当の姿じゃない。 海斗は医師を目指していた。そのためにずっと努力してきた。 生きてきた今までの全てを捨ててしまうなんて、そんなの海斗じゃない。 大人になって、バイトで暮らす海斗なんて想像できない。 海斗は白衣を着なきゃ海斗じゃない。医師じゃない海斗の将来なんて想像できない。 大人になりたいと言った海斗。 それはきっと、中途半端な大人じゃないんだ。 胸を張って生きる、強い大人になりたいんだ。 なら、おれは……。 おれは、おれ自身に向き合うために、久しぶりにパソコンを立ち上げた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |