おもいびと ◆うつろい5 「柊……」 おれが泣きそうになっているのに気付いて、柊司さんはまた気遣いをくれた。 「──早く食べよう。せっかくのごはんが冷めちゃうよ」 優しい笑顔のまま、おれに向かってくれる彼の優しさに負けて。 おれは体面も何もかもを捨てて甘えたくなる。 「そんなに優しくされたら……惚れるだろ?」 「残念……君は家族だからね」 おれはその家族に惚れた。おれたちは、それを知って、あえて会話を続ける。 「──家族に惚れたらダメ?」 「ダメ。……家族は欲を向け合った時から、家族じゃなくなる」 「欲?」 「思い遣りも優しさも失って。憎しみや、嫉妬や、欺瞞に負けて。愛情そのものを無くしてしまう」 柊司さんの言わんとするところは、たぶん遺産の相続問題とか介護問題とか。 そんなグローバルな問題も含んでいるんだろう。 おれ限定で指摘しない優しさが分かる。 有り難いけど。 例えが難しい。 [*前へ][次へ#] [戻る] |