おもいびと ◆懺悔2 鍵が開けられて、玄関のドアが開閉する音が聞こえた。 リビングで問題集を解いて過ごしていたおれの耳に、靴を脱いで廊下を歩いてくる足音が聞こえる。 ソフトフローリングの軋む音には最近やっと慣れた。 リビングのドアが開いて、知的なハンサムが現れる。 「──おかえり」 おれは、ソファーに座ったまま彼を迎えた。 ドアから洩れる光に寄せられて、寝室に入る前に寄ったらしく、ショルダーバッグを肩から提げたままだった。 「帰ってたのか……早いな」 親しく関わってくれる。 彼はいつも優しい。 「真面目だからね、最近」 おれは自嘲した。 ここに落ち着く前のおれは、女のところを渡り歩いていたから。 「いい傾向だ」 彼はそのままキッチンに入って冷蔵庫を開けた。 「デートは?」 「しないよ」 彼は笑うけど、その割には今はもうとっくに9時を過ぎている。 「遅かったね」 「──瞳さんと…………」 おれは、母親の名前が彼の口から出たことに緊張した。 彼は母と同じ職場で働いている医師で。 よく家にも遊びに来る、懇意にしている家族ぐるみの友人だ。 彼が同性愛者だという事を、おれの家族は皆知っている。 「話してきたから……」 彼は、ミネラルウォーターのペットボトルを手にして、リビングに戻ってきた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |