おもいびと ◆原罪1 高校二年。 漠然とした自分の将来を、具体的に考えなければならない時期になった。 おれは、育った家庭の環境からなのか。 ガキの頃からなんとなく自分は医療者になるのだろうな……と、予感していて。 中学三年になってから、医師になることを目指した。 最初の受験で色々あって、周りにも迷惑をかけたから、今回は学生らしく真面目に勉強して、毎日積み重ねてきた。 その他の私生活がどうあれ、本業を全うしているからブレないでいられる。 それに……。 おれには陸がいる。 中学の頃のおれは腫れ物だった。 誰彼構わずストレスをぶつけて、アイツにまで気を遣わせて。 だからもう。 アイツに心配させるような真似はしたくない。 そんなふうに落ち着いて過ごしていた日々。 なのに、今度は陸が不安定になっていた。 冬の終わりから春を過ぎる頃には、明らかに精神的ストレスを抱えていて。 陸はおれに対してさえ、壁を作るようになっていた。 学習塾に通うようになって、自由な時間は制限された。 高校受験を控えて、ナーバスになっているのだろうと思えたから。 慰めてやりたいと思っても、陸はおれを寄せ付けなくて。 学習机と関係しているのかと疑わしく思うほど、いつ部屋を覗いても机にかじり付いている。 あんなに根を詰めては持たないと感じていた。 そんな事が日常になってから数週間。 ある夜。 机に向かっている陸を覗くと、その背中が時おり揺れて、それと共にしゃくり上げるような声を聞いた。 泣いているのだと、すぐに分かった。 一体何があったのか。 おれは、見過ごすことなんて出来るはずもなく。 ドアをくぐって閉めてから、陸に近寄って背中から抱きしめた。 おれの気配に気付いていた陸は、黙ったままで。 何も言わずに俯いて、閉じたまぶたから涙がポツリと零れ落ちた。 [次へ#] [戻る] |