おもいびと ◆僕らのキセキ4 状況は忘れた。 なぜ、夜に弟とふたりで家に残されていたのかは分からない。 ただ、大人のいない夜の家は、静かで怖かった事だけは覚えている。 テレビの音だけが妙に室内に響いて。 少しでも暗がりがあると、そこから何かが迫って来そうで。 家中の灯りをつけて、テレビを見ていたような気がする。 そんな中、突然家の中が暗闇に包まれた。 ブ……ンという電源が一斉に切れる音が禍々しくて、弟が恐怖のあまり火がついたように泣き出した。 おれはどうしていいか分からなくて、右往左往しながら灯りを求めていると。 カーテンの隙間から射し込む微かな明かりに誘われて、カーテンを引っ張った。 外には見事な満月が中空に浮かんで。 月明かりに照らされた室内の、厳かで清浄な空気に、子供ながら魂が揺さぶられた。 いつの間にか弟は泣き止んでいて。 その後の記憶はない。 抱き締めあってそのまま眠りについたのか。 親が帰ってきたのか。 ただ 雨上がりの霽月に照らされたふたりだけの世界があまりにも美しくて 畏怖の念を抱きながら ずっとこのままでいたいと 心に芽生えた思いを覚えている [*前へ][次へ#] [戻る] |