おもいびと ◇WAY OF LIFE15 店の前で別れよう……ってなった。 もうこれで終わりなんだって考えたら、色んな事を思い出したり、色んな思いが湧き上がってきたりして、何だかひどく落ち着かない。 一方的に、切り出した別れなのに。 他に好きなひとがいながら続けてきた関係だったのに。 男同士のそんな関係に、どうしておれは痛みを感じているんだろう。 休日の雑踏の中で。 おれの目の前にただ黙って立って。 おれを見つめてくる先輩の視線は、どうしてこんなに優しいんだろう。 そんな風に感じたとたん、また顔が熱くなってきた。 ばかだおれ。 なに泣いてんの? 悪いのはおれのほうなのに。 おれは、先輩が優しいのを、いい気になって利用したんだ。 こんなふうに泣く資格なんてない。 どうしてそんなおれの方が、泣けてくるんだ。 自分のこんな感情、訳わかんない。 複雑すぎて混乱する。整理できない感情が、おれを掻き乱す。 何も言えなくて。 別れの言葉も、感謝の言葉さえも伝えられない。 立ち尽くすおれたちの風景は、いつのまにか雪につつまれた。 ゆっくりと舞い落ちる風花が、ふたりの間をさえぎる。 ひとかけらの雪がふんわりと唇に触れて、冷たいと感じた一瞬ですぐに解けた。 雪の降る景色にとけこむ、背の高いシルエット。 キレイだなって感じながらぼんやりと眺めていたら、不意に先輩の顔が近付いてきた。 触れるだけの柔らかいキスが唇に落とされて、おれは驚きすぎて何も返せない。 先輩とのキスは、はじめてだったから。 「りーく。だめだろ。……おれは、おまえに泣かれると弱い。メチャメチャ抱きしめたくなる」 耳元で囁かれて、全身が熱くなる。 でも、驚きすぎて、やっぱり動けない。 「……餞別」 また、唇におとされた優しいキス。 それは、まぶたに、ほほに、何度も触れて。 まるで、愛しさをのせて触れてくるようで。 おれは、このひとが大好きなんだって思い出した。 「元気でな。……頑張れよ、陸」 囁きが唇をくすぐった。 熱く、柔らかく。 そっと包まれて。 雑踏のざわめきも街音も耳に届かなくなって。 三度目のキスで、おれは目を閉じた。 恋してるとか付き合ってるとか。 そんな風に『好き』という気持ちがどんなものなのか。 ああ……。これなんだな……って。 おれは、今ようやく実感できた。 好きです。 先輩。 もう……伝えられないけど。 大好きでした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |