おもいびと ◇WAY OF LIFE13 「先輩。おれ……」 相談もなく一方的に別れを告げる。 同じ立場になって、少しだけ海斗の気持ちに共感できた。 なんて胸が重いんだろう。 なんて苦しいんだろう。 でも、突然言われた方がきっと、ずっと辛い。 それはもっと共感できる。 全てを伝えてからそんな事を感じて、おれは先輩の顔を見ていられなくなってテーブルに視線を落としてしまった。 恋人同士として付き合っていたわけじゃない。 けれど、先輩は大好きな『先輩』で。 けじめをつけなければならない関係だったのは事実で。 明日からいなくなりますって伝えて。 じゃーな……って、簡単に別れられるような間柄じゃないと、おれが思いたかった。 勝手だとは思うけど。 先輩には感謝してる。 おれは先輩にあこがれていた。 先輩の音楽にも、先輩自身にも。 尊敬していた。 本当に。 そして、今でも大好きなんだ。 そんな言葉が頭の中でぐるぐる回るだけで声にならない。 どんな関係だったとしても、大好きだった人と別れるのは辛いから。 「ごめん。ありがとう」 おれの頭を撫でる大きな温かい手。 先輩 ありがとうって何? 「付込んだのはおれだ」 いつもと変わらない優しい声に引かれて、おれは顔を上げて先輩を見た。 [*前へ][次へ#] [戻る] |