おもいびと ◇WAY OF LIFE11 おれの思いは確実にひとつの場所に向かっていた。 先輩との初めての夜。 おれにとってはもうひとつの重大な出来事があった。 初めて生で聴いたプロの演奏。 本物のジャズの音。 何もかもが違う。肌で感じたアメリカの音楽。 おれは、その時から身体の奥に燻る何かを感じて。 今、ちゃんとした意志を持って自分自身と向き合った。 医師になりたいと願った自分。 それは、海斗と少しでも多くの時間を過ごしたいと思ったから。 でも、音楽に触れて。 陶酔するほど夢中になれる自分がいた。 海斗は「自分の足で立て」と言った。 それはきっと、自分の意志で生きていくための何かを探せって事だったんじゃないかと思う。 誰かの影響を受けて流されるのではなく、自分が思う道を進めって事なんじゃないかな。 おれは音楽に触れていたい。 どんなときも、音楽だけは一緒だった。 自分が、自分らしく在る場所。 それがきっと、そこで待っているんじゃないかって思えて。 自分でも信じられないくらいの速さで形になっていった。 この場所に独りでいるのが辛い。 逃げ出したい。 少しの期間でもいいから、ここを離れたい。 そういう思いがあったことも否定しない。 けど。 このまま引きこもっているよりはずっとマシだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |