おもいびと ◇WAY OF LIFE3 信号がまた青に変わった。 おれは、海斗の手を握って前に踏み出した。 海斗は驚いた顔をおれに向けて、牽かれるままに横断歩道を渡る。 カッコウの鳴き声を模した電子音。 たくさんのタクシーが駅前のロータリーに入っては出ていく。 ビルの狭間に響く街音。人々のざわめき。 その雑踏に流されるように、おれたちは駅前の広場にやって来た。 なのに、駅ビルの前でまた動けなくなった。 今度動けなくなったのはおれ。 ここで離してしまえば、本当にこれで別れなければならないから。 そう思ったとたんに、泣き出してしまいそうな胸の痛みがおれを支配した。 海斗は黙っておれの傍にいる。 動けないのは海斗も同じ。 そんなの分かってる。 同じ気持ちなんだ……って、今なら分かる。 傍にいたい。 ずっと一緒にいたい。 この体温を、失いたくない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |