おもいびと ◆恋慕11 予想通り、一度では済まなくて。 何の変哲もないただの自慰で、相互オナニーですらない行為なのに。 おれたちは夢中になって、身体を合わせた。 餓えていたのはこの体温。 声、体臭、肌の感触までが嬉しくて。 少しヒリヒリしてきたから止めようか……と諦めるまで行為に溺れた。 ここまで互いに感じてしまったら、もうオナニーでも何でもないような気がするが。 それでも、けじめをつけたかったおれたちにとっては、ちゃんと意味のある自制内の行為だった。 すっかりベタベタになった身体を風呂で洗って、同様にぐちゃぐちゃになったシーツは洗濯機にかけた。 新しいシーツを敷いて、さっぱりした身体で、ベッドに潜り込む。 今度こそ、抱き合って満たされた眠りについた。 寝顔を眺めながら、嬉しくて、愛しくて。 こいつのためなら、おれはどんな苦労もいとわない。 改めてそう思えた。 なのに、不意に涙があふれてきて、気持ちが高ぶっていて眠れない。 ふと、母がよく口ずさんでいた昔の歌を思い出した。 どうして思い出したのかは分からない。 これまで、歌詞の意味なんて理解出来なかったのに。 今になって切ないほどに実感させられる。 愛してる 愛してる すごく好きなのに こんなにそばにいるのに どうして、涙が出てしまうんだろう 陸 おれは 自分が壊れてしまいそうなほど こんなにも、お前が愛しい 恋慕 ――終―― [*前へ] [戻る] |